11.5米大統領選後、日本株を覆う霧は晴れるのか 出遅れている日本株浮上のカギを握るのは?

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このように、トランプ氏が言及する数値に頑健な根拠がないことを踏まえれば、10%や60%という数値も政治的パフォーマンスが過熱する中で浮かんできたものなのかもしれず、政策の実行段階で見直される可能性は十分にあると思われる。

では、関税は本当に引き上げられるのだろうか。筆者個人の見解としては、仮にトランプ氏が大統領選に勝利したとしても前回の同氏の大統領任期中、当初は日本からの自動車輸出に追加的な関税を課すと言及していたものの、交渉の末に見送られた経緯があるので、今回も政治的な「脅し」に終わる可能性があるとみている。

もちろんこれに関しては未知数の部分が大きいが、関税引き上げによって財価格が上昇し、足元で落ち着いているインフレが加速すれば、消費者の不満を招くほか、FRBの利下げの障壁になる可能性もある。

このように、政治的にはウケが良くても経済的には良い結果をもたらさないと一般的に理解されていることを踏まえれば、結局政権側も自重するのではないだろうか。ちなみに関税の引き上げについて、大統領は特定の状況下で関税を引き上げる権限を持っているため、必ずしも議会を通す必要はない。したがって、議会がねじれてもさほど大きな障壁にはならないという点は留意が必要だ。

通商政策に関する不透明感は、大統領選で民主党のハリス政権が誕生すれば一気に和らぐが、トランプ氏になった場合はしばらく警戒が必要だろう。ただし、それでも筆者の予想どおり、関税が回避されるという期待感が芽生えれば、株価が反発する余地は大きいと考えられる。自動車・同部品は8月以降、大きく売り込まれた状態にあるため、割安感が意識されるだろう。

今回もアメリカの企業景況感は2016年の再現に?

最後に、2016年にトランプ氏が大統領選に勝利した前後の企業景況感を振り返っておきたい。アメリカで最も有名な経済指標の1つであるISM製造業景況指数は、2016年の大統領選前は、トランプ氏の掲げる過激な政策に対する警戒感から低水準に抑制されていた。

政策の不透明感が強いなかで、企業の生産・投資活動が抑制され、企業景況感が冷え込んでいたとみられる。しかしながら、大統領選を通過すると、減税など政策に対する期待が膨らみ、改善方向に歩んだ経緯がある。

2024年も、7月のISM製造業指数が失望的な結果となったことをきっかけとして世界同時株安となるなど、同指数は投資家の注目度が高い指標である。そのため、改善は株高につながることが多い。もし間近に迫ってきた大統領選でトランプ氏が勝利した場合、2016年の再現となるだろうか。

藤代 宏一 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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ふじしろ こういち / Koichi Fujishiro

2005年第一生命保険入社。2010年内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間『経済財政白書』の執筆や、月例経済報告の作成を担当。その後、第一生命保険より転籍。2018年参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。2015年4月主任エコノミスト、2023年4月から現職。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当は金融市場全般。

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