「がん免疫療法」うたう自由診療に潜む本当の怖さ 日本人は「あやしい医療」の実態を知らなすぎる
世界中の新薬の治験が登録されているClinicalTrials.govで検索しても、ガスダーミンタンパクの発現レベルを研究しているものはあるが、治療薬として登録されたものはない。日本での治験も行われていない。
ガスダーミンにはAからEまでガスダーミンファミリーと呼ばれる複数の物質があるものの、どのガスダーミンががん治療としての効果を期待できるのかは、まだよくわかっていない。
反対に、これまでの研究結果を見ると、ガスダーミンは多くの炎症性サイトカインという物質を放出することがわかっている。
がんの免疫療法薬には、すでにオプジーボやCAR-T細胞療法など、有効性が証明され、製品にもなっているものがある。だが、その一方で「サイトカイン症候群」と呼ばれる、サイトカインが大量に放出されることで起こる副作用が問題となっている。
このサイトカイン症候群は、ときに重症化して多臓器不全を起こし、死に至ることもある。また、全身に血栓ができる播種(はしゅ)性血管内凝固症候群という、手遅れになると致命的な症状を引き起こすことも報告されている。
ガスダーミンがまだ臨床開発にいたっていないのは、正確に標的となる物質が同定、精製されていない問題や、サイトカイン症候群の問題点などがあるからだ。そのため、臨床開発まで進んでいない可能性があるのではないかと、筆者は推察している。
有効性よりも安全性が重要
このような状況下で、このクリニックがどうやってガスダーミンを手に入れたのかはまったく不明であるが、少なくとも、人間に未知の物質を投与する際には、有効性よりも安全性が問題となる。
ましてや、基礎研究でサイトカイン症候群が示唆されるような物質を投与するのであれば、厳密な臨床試験を行わなければならない。
マウス実験で有効とされたものでも、人間への効果は別物で、有効性も副作用もまったく不明であるといってよい。
一般的に、新薬の臨床開発は第1相試験から始まる。
第1相試験は、動物実験が終わった段階で、人間への安全性がまったくわかっていない状況で開始するもので、非常に少ない投与量から、徐々に薬剤の投与量を増やしていく。人間に安全に投与できるかという臨床試験であるため、非常に厳格に行われ、がんの新薬の場合は、がんセンターなどの専門施設でしか行われない。
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