スポーツ報道の「見どころ至上主義」は限界だ

日本のスポーツジャーナリズムの不可解さ

テレビの情報番組や報道番組にコメンテーターとして出演するようになって10年以上たつが、そもそもの話、この原稿の執筆依頼を受けるまで、テレビメディアに「スポーツジャーナリズム」という概念や意識が存在すると思ったことはほとんどなかった。市民の権利と便益を守るために、権力監視の立場から客観対象を公正・中立かつ批評的に報道することをジャーナリズムと定義するならば、それを行うにはテレビはスポーツやスポーツビジネスと一体化しすぎているからだ。

スポーツは放送メディアにとって重要なコンテンツである、という程度の関係ではもはやない。放映権料は試合やシーズン単体の収支ではなく、チームやリーグ、運営団体や競技委員会の経常的な収入源として組み込まれ、一方でネットの普及やデジタル化の波に押されるテレビにとって、スポーツはキラーコンテンツとしての重要度をさらに増している。プロ野球やJリーグのスター選手や、女子バレーボールの日本代表選手が、ときに芸能人と同じ位置づけでバラエティ番組に出演し、アトラクションのゲームや、とりとめのない会話に付き合う姿には、両者の共依存関係が象徴されている。

リーグや運営団体の側からすれば、コンテンツ市場のライバルである他の競技より認知度を高めることは経営面で死活的に重要であり、広告塔である人気選手をできるかぎり多くテレビに露出させたい。テレビの側にとっては、アスリートをアイドル的なアイコンとして扱うことで、スポーツにそれほど(あるいはほとんど)興味がない視聴者にも自局が中継する試合に関心をもってもらえる(あくまで「自局が中継する試合」であって、試合一般や競技そのものへの関心ではない)。この両者とそこに介在するスポンサーは「稼ぐ」ために互いを利用し尽くす運命共同体であり、その一部であるテレビメディアにおいてジャーナリズムが機能することを期待するのはむずかしい。

そもそも、メディアがスポーツに対して果たしうる役割とは何か。個々の競技のファンが一人でも多く増え、そのファンが自分でプレーしたり、試合をテレビやスタジアムで観戦したりするようになり、それがリーグやチームの運営に金銭面で寄与するとともに、選手や指導者のモチベーションとなり、結果として質が高くエンタテインメント性も高いプレーが披露され、それによってファンがまた増える――。そうした理想的な循環をうながすことだろう。

その意味では、ある程度の商業主義は必要悪と割り切ることもできる。ただし、そのうえでメディアのスポーツジャーナリズムに問われるのは、そうした循環において欠かせない、ミーハー的な興味ではない持続的なファンを増やせるかどうかということと、そうした循環を阻害しかねない要素が現れたときに、厳しく追及し批判する報道を行えるかどうかだ。

「見どころ至上主義」で矮小化される解説

ファンをどう増やすかという点で常々疑問に感じるのは、テレビなどの「見どころ至上主義」な切り口だ。試合の勝因や敗因を専門家の解説とともに分析するのはスポーツジャーナリズムの重要な一部であるが、実際にはむしろ観客(視聴者)という消費者に自局が中継したゲームの意味づけを行うアフターケアや、次の中継試合というコンテンツへの注目度を高めるためのマーケティングの一部としてしか扱われていない。

そこでは、戦略の面白さや個々の戦術の妙味よりも、注目選手がどのように勝利するか(得点するか)という矮小化されたアングルから試合が単純に語られることが多い。それは結果的に、競技を「チームの勝敗とスター選手の活躍度という、デジタル的なスコアによってのみ面白さが測られるもの」という認識を視聴者に植えつけてしまい、テレビで観て関心をもった人が実際にスタジアムに足を運ぶ機会を奪っているように思う。

いや、広島カープを応援する「カープ女子」はそうした選手個人へのミーハー的な興味から、遠征試合にも駆けつけるほどの熱意をもつようになったのではないか、という指摘もあるかもしれない。しかしテレビなどで紹介される彼女たちの言葉や姿を見る限り、カープ女子たちは表面的なプレーだけでなく、選手がベンチから守備位置につくときの何気ないしぐさ、個々の試合ではなく数週間やシーズン単位での成長の軌跡、ニュースではスポットライトの当たらない脇役的な選手の魅力など、二進法的に記号化された成績や結果を超える、こだわりのポイントを選手たちに見出している。それはむしろ、テレビが何を伝えていないかを示していると言っていい。

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