米大統領選、脱炭素で隔たり。政策遅延の可能性も 杉野綾子・武蔵野大学准教授に展望を聞く

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――他方、規制強化の動きも見られました。今年1月、バイデン政権は液化天然ガス(LNG)輸出許可の一時停止という措置を実施しました。

これは、自由貿易協定の非締結国向けLNGの輸出許可判断を、エネルギー省による審査基準の見直しが完了するまでの間、一時的に停止するというものだ。

ここ3~4年先までの建設プロジェクトについてはすでに許可が出そろっていて、大きな影響はない。許可済みのプロジェクトが稼働すれば、輸出数量は現在の年間約1億トンから倍増する見通しだ。ただし2030年頃またはそれ以降、LNG供給をタイトにするリスクとして認識すべきだ。

今後、中東カタールの増産も見込まれるため、全世界ベースで需給動向を検証する必要はあるが、アメリカからの供給が潤沢でなくなるというリスクには注意を要する。その際、この一時停止がいつまで続くのかが重要だ。トランプ氏が大統領になれば、一時停止はすみやかに撤回されると見られる。許認可のスピードが速まる可能性も高い。

EVをめぐる両者の政策の違いとは

――次に脱炭素エネルギーに関する政策動向についてお聞きします。ハリス氏とトランプ氏でどのような違いがありますか。

仮にトランプ氏が返り咲いたとしても、脱炭素化の流れ自体を止めることは困難だ。そのことを、電気自動車(EV)をめぐる政策とインフレ削減法(IRA)の動向を通じて見てみたい。

すぎの・あやこ/武蔵野大学法学部政治学科准教授。日本エネルギー経済研究所客員研究員。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。2001年日本エネルギー経済研究所入所。アメリカのエネルギー政策・産業を中心に、アメリカの政策決定過程、エネルギーと関連が深い運輸・インフラ政策、税制、対外政策などを研究。同研究所で研究主幹を務めた後、2021年4月より現職(撮影:尾形文繁)

EVについて、トランプ氏は自動車会社に対する販売目標の義務づけをやめさせると公言している。しかし規制自体を廃止することは難しいと見られ、できるだけ規制を緩めるという方策を採るのではないか。とはいえ、トランプ氏はEVに関する国内のサプライチェーンを強化すること自体に否定的ではない。

トランプ氏が何を問題にしているかというと、技術の成熟度やサプライチェーンや充電器などのインフラ整備の度合いを無視して、自動車メーカーに数値目標達成を義務付けるというやり方に反対している。

ゆえに、トランプ氏が大統領になったからといってEV産業が潰されるといった心配をする必要はない。かつてトランプ氏は大統領の任期中に、EVの生産に必要なレアメタルやレアアースの自給率を高めることを目的とした戦略を打ち出している。トランプ氏が今後打ち出す方策は、燃費基準の緩和であろう。

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