橋下「大阪都鉄道構想」は、なぜ頓挫したのか 幻となった「なにわ筋線」と「関空リニア」
テレビカメラの前で発言する知事は、いつも何かにイライラしていた。バラエティー番組に出ていたときのような語り口の妙、話のキレやオチも影を潜めた。
やがて、自民党大阪府連や民主党、府議会、大阪市長、国会議員、メディアへの非難を強め、対決姿勢を示していく。
状況を打開すべく、2009年夏の堺市長選挙に側近を送り込み、2010年春に「大阪維新の会」を発足させ、2011年秋の大阪市長・大阪府知事のダブル選挙で勝利する。
橋下知事は、大阪市長に転じた後も、なにわ筋線にこだわり続けた。
2012年に南海と地下鉄四つ橋線、地下鉄新線(西梅田~十三~新大阪)の乗り入れ構想を披露したこともある。軌間や集電方式の違い、車両やトンネルのサイズを無視した私案には首をかしげざるを得ない。2014年には、「(なにわ筋線について)府と共同で正式に検討する。行政的な手続きにのせていく」と発言し、大阪府戦略本部会議の「戦略4路線」に取り上げている。大阪維新の会も、大阪都の経済戦略として、なにわ筋線建設をアピールしている。
ただ、2015年現在、なにわ筋線の構想が具体化する目処は立っていない。橋下市長が初めて言及してから7年も経つが、なぜ具体化しないのか。3点指摘しておきたい。
まず、大阪府民、大阪市民が、なにわ筋線にほとんど関心を示さなかったことが大きい。経由地は地下鉄四つ橋線のすぐ西側、今でも交通の利便は良いエリアである。あればそれなりに便利ではあるが、どうしても必要というほどの切迫感はない。
また、関西空港活性化のために必要だ、という触れ込みも理解してもらいにくかった。実際、「梅田と関空が30分台」というが、今の「はるか」が北梅田駅を発着したと想定すると関西空港駅まで約45分。なにわ筋線・JR難波駅経由だと42分程度だろう。わずか3分の時間短縮で関西空港の利用者が飛躍的に伸びるとは考えにくい。30分台で走り抜けるなら、阪和線内でも相当スピードアップしないと不可能な数字だ。
経済効果はわからずじまい
3つ目に、橋下市長が、なにわ筋線の建設ありきで語るため、経済効果がどれぐらいあるのか、必要性はどうなのか、多面的な分析がなされていない点も指摘したい。収支採算性や費用便益比、建設費の精査、関空会社やJR、南海に与える影響、資金スキーム……そういった情報は何も示されていない。財源は「大阪市営地下鉄を民営化して株式を売却した資金」。市長は自らの「『ストックの組み替え』で交通インフラを造る」というロジックにこだわり続けた。それでは、他の利害関係者と問題意識を共有できない。
ちなみに、東京都内でも、よく似た性格の地下鉄新線が検討されていた。浅草線のバイパス線、都心直結線構想(押上~東京駅付近~泉岳寺)だ。国土交通省や自民党が強力に後押ししていたが、東京都は2015年7月に発表した広域交通ネットワーク計画から外している。巨額の費用がかかる割には採算面で難ありと判断したからだ。
さて、橋下市長は、当初、大阪市営地下鉄をやり玉に挙げる中で、現状の大阪の二重行政の問題点を批判し、「大阪都」が実現することで「交通インフラ整備の一元化」が可能だと訴え続けていた。ところが、2014年夏から真逆の主張をし始める。
次回、後編は、大阪市営地下鉄民営化を巡る話で、橋下市長と野党とで論争になった地下鉄今里筋線の延長構想を中心に話を展開してみたい。
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