「もう1食ほしい」が自衛隊で通用しない絶対理由 ドケチぶりにもほどがある自衛隊の給食不正

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図々しいからこそ、「現場で怒られないから、自分の行為は認められている」と自分のいいように解釈している。そもそも無銭飲食も不正喫食も、まともな神経を持っているならやらない行為なのだ。

ただ、怒られないのは当然である。現場の下士官兵が、士官や先任下士官に文句は言えないことは前に述べたとおりである。士官の給養班長もいるが、大勢の前で相手の体面をつぶすようなことは言えないものだ。目に余ったとしても、内々に叱る。遠回しに、人目につかないように注意する。

筆者は「タッパー士官」の例をよく覚えている。給食の最後の方に来て、余ったおかずをタッパーに詰めて持ち帰るという高級士官だ。同じ基地の違う部隊で、筆者と仕事は同じ。しかも人となりはよく知っている。

本人は必ずしもケチンボではなかった。タダのものなら何でもほしがるという、貧乏くさいタイプだった。

そこで、給養班長が別件を口実に筆者の事務室に来た。そして世間話をしたうえで「お願いだから注意してくれ」と切り出した。同部隊で同階級だが、定年間近で神様のような人が、大学を出たばかりの筆者に頭を下げるという形をとっている。

しかも、部下の人数分のアイス、余った航空加給食までお土産で持ってきた。断る立場でもないし、断れるわけもない。

おそらくはこんなやりとりだったと思う。「士官全体の体面の問題」「下士官兵は何も言えない」「私もオーラを出しているけど止めてくれない」「違う部隊だから言いにくい」「アナタは先生と親しいからそれとなくね」「これも若いうちの経験だよ」といったあたりである。

注意してもぬかにくぎ、そして処分へ

結局は、先方の准尉さんに再委託した。実質的には若造士官の何倍もエライから、高級幹部に諫言できる。先生とも20年や30年の人間関係なので何でも言える。「みっともないからおよしなさい」「内々で注意してもらえるうちだよ」程度は言ったのだろう。以降はその話はなくなった。

人事処分となるのは、それでも聞かない隊員である。さらに上司の注意もぬかにくぎとなった場合だ。

上からの注意はとくに穏やかになる。処分対象は40代や50代の隊長や科長であり、叱る側も50代の司令や副長である。声を荒らげて怒るのもバカバカしい。「ヤメてね」と軽く諭すくらいだ。どこの会社や役所でもそうだろう。

処分隊員はそれを都合よく解釈する。元々が図々しいので「たいして怒られなかったから続けても大丈夫」と考えて悪事を続ける。結局、処分される。

自衛隊にはこのような事情がある。人事処分される理由があるからこそ、問題児が処分されて、それを公表したという話にすぎない。

だから、国民が同情するにはまったく値しない。保守派や保守派のシンパの人たちのような自衛隊応援団が言うように、「国は自衛隊員にご飯も満足に食べさせていない」わけではないし、「処分される自衛隊員がかわいそう」と考えるのも誤りなのだ。

文谷 数重 軍事ライター

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もんたに すうちょう / Sucho Montani

1973年埼玉県生まれ。1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。ライターとして『軍事研究』、『丸』等に軍事、技術、歴史といった分野で活動

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