サイゼがじわじわ「メニュー数」を減らす本質理由 ファミレス衰退のなか、ファストカジュアルに移行?

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ちなみに、ファストフードについては、業界全体として好調である。何をファストフードと分類するかはとても難しい問題だが、「安く、手軽な店内調理で食べることのできるレストラン」という意味でいえば、マクドナルドなどのハンバーガーチェーン、松屋やすき家などの牛丼チェーンが日本における代表的なファストフードだといえるだろう。

日本ソフト販売が発表したデータによれば、ハンバーガーチェーンや牛丼チェーンは、小さくはあるものの、いまだに店舗数が増え続けているのだ。

2つの業界で細かい要因は異なるだろうが、ファストフードの特徴である「安さ」や「手軽さ」が顧客に対する魅力になっているのだろう。また、小さな面積でも店舗を作ることが可能なので、コロナ禍で増えた空き店舗を活用して店舗数を増加させられたという背景もあるかもしれない。

いずれにしても、サイゼリヤがファストフード業界に近づこうとするのは、ファミレス業界の現在の状況から考えると、とても合理的な選択だといえるのだ。

サイゼリヤの「理念」とのすり合わせが課題だ

ただ、ファストフードに寄っていくと、失われるものもある。サイゼリヤが、ファストカジュアル化に向けた取り組みとしてメニュー数の削減を行っていることは述べた通りだ。2023年には、秋のメニュー改定に合わせ、通常メニュー141品目が101品目に減らされた。かなりの削減だ。

サイゼリヤ創業者の正垣泰彦によればサイゼリヤの強みの1つは「コーディネーション」にあるという。個々の商品を単体で食べるというよりも、「イタリア料理」という枠の中でさまざまに用意された料理やドリンクを組み合わせて食べられるのが、「他の外食チェーンとサイゼリヤの最大の違い」(p.59)だと言う(『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』)。

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確かに「サイゼ飲み」という言葉が表すように、ワインとおつまみをそれぞれが好きなように合わせて食べることができる、そのバリエーションの豊富さがサイゼの1つの面白さでもあるだろう。また、サイゼは低価格路線なのに客単価が高いことも特徴で、その要因の1つもこうしたメニューの「コーディネーション」にあるだろう。

その意味では、このメニュー数の削減と「コーディネーションの思想」をどのように両立させていくのかが、「ファストカジュアル化」の1つのポイントになる。

すでに見てきたようにファミレス業界は、現在大きな変化の中にある。生き残っていくためには、その変化に対応することが大事だ。一方、その変化に乗りつつ、サイゼリヤの理念にも立ち返り、それらを両立させていくことが今後のサイゼリヤの展開において重要だと思われるのである。

谷頭 和希 チェーンストア研究家・ライター

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たにがしら・かずき / Kazuki Tanigashira

チェーンストア研究家・ライター。1997年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業、早稲田大学教育学術院国語教育専攻修士課程修了。「ゲンロン 佐々木敦 批評再生塾 第三期」に参加し宇川直宏賞を受賞。著作に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』 (集英社新書)、『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』(青弓社)がある。テレビ・動画出演は『ABEMA Prime』『めざまし8』など。

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