難病ALS待望の「新薬」医師が乗り越えた"高い壁" 一度申請を取り消された薬が承認となった背景

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ロゼバラミンは、メチコバールというビタミンB12誘導体製剤の有効成分 の用量を多めにした薬だ。メチコバールは以前から神経の病気に多用されているもので、神経の専門家でなくても、医師であれば、処方した経験がある人はとても多い。

かくいう筆者も(処方数は多くないほうであるが)、何度か処方している。言葉は悪いけれど、今ひとつ効きが良いとはいえず、末梢の神経障害などで苦しむ患者さんに「出すとしたらこれくらい」ということで出すことも、なくはない薬である。少なくともそういう面はあった。

ロゼバラミンとはどういう薬か

今回、承認されたロゼバラミンは、通常用量が500マイクログラムのメチコバールの100倍にあたる、50ミリグラムの高用量の有効成分が入っていて、以前からALSに対する効果が期待されていた。

先日、承認されたロゼバラミン(写真:エーザイ株式会社提供)

実際、発売元のエーザイは2015年に一度、この薬の承認申請をしている。なんと、さかのぼること9年も前の話である。

残念ながら、このときは、進行抑制の効果が十分に証明されないということで承認は見送られてしまったが、この薬が、“早期のALSの進行抑制”に期待できるとして、いわゆる「リポジショニング」の薬として申請されたのだ。リポジショニングとは、すでに承認され、使用されている薬を、元々の使い方と異なる使用法で申請し直すことを指す。

こうしてリポジショニングとして復活したロゼバラミンは、ALSという人類にとっては向かうべき強敵への有効な武器となったといえる。

車いすの物理学者として有名なホーキング博士や、毛沢東氏などが罹患したことでも知られるALSという病気は、筋疾患というジャンルにある難治性疾患で、厚労省の難病指定も受けている。

自律神経系に関わる節前(せつぜん)性線維という神経細胞が萎縮し、筋肉をコントロールするための司令系統に大きな支障が出る病気で、原因は不明だ。

腕や足の筋力が徐々に低下し、やがて飲み込みをつかさどる筋肉や、呼吸をするための筋肉も低下する。その結果、人工呼吸器の助けなしでは呼吸できなくなるなど、次第に身体能力が著しく低下してしまう。その一方で、知的能力は基本的に長期に保たれるというアンバランスが、闘病を難しくしている。

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事