難病ALS待望の「新薬」医師が乗り越えた"高い壁" 一度申請を取り消された薬が承認となった背景

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冒頭でも触れたが、この医師主導治験の結果、早期のALS患者さんにロゼバラミン(メチルコバラミン)を投与すると、16週の時点で機能評価スケールの低下を統計学的に有意に抑制させることがわかった(図参照。外部配信先では閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。

機能評価スケールというのは、国際的に用いられているALS患者の日常生活を評価する尺度で、重症であるほど点数が低い。

(グラフ:和泉医師提供)

その後の延長試験の結果からは、早期に投与した実薬群が遅れて投与したプラセボ群に比べて500日以上の生存期間の延長を示した。500日以上といえば1年半にもなる。一方、副作用などに関してはプラセボ(疑似薬)と同等で、安全性も高いことがわかった。

11~12月には治療が始まる

ロゼバラミンが今回の承認につながったというストーリーは、まさに、専門医の医師たる矜持の最たるものである。筆者は同じ医師の端くれとして、感激といってよい感慨を憶える。

長いトンネルを経て、ロゼバラミンが陽の目を見るにいたった、この治験のことは、先日から医師仲間の間でもしばしば話題になった。

専門家の臨床的な勘からくる「信念」は、本当に得難い、素晴らしいものであると私は思う。また、最近持てはやされるAIに決して代替されない、真の意味で医師の“聖域”の1つなのではないかと思う。

一般的に、新薬は保険適用に必要な薬価収載をした後の発売となり、薬価収載は「承認から原則60日以内、遅くとも90日以内」というルールがある。エーザイからは明確な時期を聞けなかったが、順調にいけばロゼバラミンは11月~12月ぐらいには市場に出て、患者さんが投与を受けることができると思われる。素晴らしい話だ。

一方で、これでALSが治癒できるわけではない。戦いはこれからも続くことを忘れてはならない。

奥 真也 医療未来学者・医師

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おく しんや / Shinya Oku

1962年大阪府生まれ。医療未来学者、医師、医学博士。経営学修士(MBA)。大阪府立北野高校、東京大学医学部医学科卒。英レスター大学経営大学院修了。東京大学医学部附属病院放射線科に入局後、フランス国立医学研究所に留学、会津大学先端情報科学研究センター教授などを務める。その後、製薬会社、医療機器メーカーなどに勤務。著書に『未来の医療年表』(講談社現代新書)、『医療貧国ニッポン』 (PHP新書)、『人は死ねない 超長寿時代に向けた20の視点』(晶文社)、共著に『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)がある。

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