難病ALS待望の「新薬」医師が乗り越えた"高い壁" 一度申請を取り消された薬が承認となった背景

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病気のメカニズムの全容がまだ解明されておらず、根本的な治療法も存在しない。世界中の研究者や製薬企業が治療薬の開発に取り組んでいるが、多くが中断を余儀なくされている。

この春にも、アメリカ当局に認められた新薬を携えたアメリカのアミリックス(Amylyx)社が、臨床試験を行っていたがうまくいかず、設立した日本法人を解散するという残念なニュースがあったばかりだ。

また、この病気の発症に関する遺伝子の関与も一部の病型でしかわかっておらず、現時点では遺伝子治療がカバーできる範囲も限定的である。

あきらめず「追試」で有効性を実証

さて、2015年に一度は承認を見送られてしまったロゼバラミンだが、専門家はあきらめなかった。追試をしたのだ。

徳島大学病院脳神経内科の梶龍兒医師(当時)、和泉唯信医師、沖良祐医師らが中心となって、千葉大学医学部附属病院、福島県立医科大学附属病院など多施設の「医師主導治験」というやり方で、早期のALS患者さんに限定して申請に必要となる臨床試験を行った。

医師主導治験とは、普通の治験、すなわち製薬企業が主導して行う治験と異なり、文字通り医師が主導して行うタイプの治験を指す。

治験には膨大な手間暇やお金がかかり、製薬企業は専門の開発部署を作り、長年にわたって、多くの社員が専従して行う。

餅屋がやっても大変な大仕事である。ロゼバラミンは企業(エーザイ)主導の治験では承認に至らなかったものを、医師主導治験で新たに有力な証拠(エビデンス)を作ろうとして計画されたのが、今回の治験である。

製薬企業に長く奉職した筆者からしても、それがいかに大変であったかは想像にあまりある。

資金面だけでなく、余剰のスタッフがいない病院という現場で、膨大な事務機能を誰がどうやって担うか。担当する医療従事者は、倫理委員会などを通すための膨大な書類の作成や、治験に参加する患者さんの調整やデータの分析のほか、さまざまな事務処理を、日常の診療業務に加えて行わなければならない。

いくら製剤を提供する企業のバックアップがあったとしても、企業主導の治験の続きを医師主導治験でやるというのは、なかなかにハードルが高い。これだけは多くの人たちに知っておいていただきたいと思う。

それでも、そういう苦難を「絶対に役立つはず」という信念のもとにやり遂げ、新しいエビデンスを実証してみせた。

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