少年事件と向き合う「虎に翼」寅子モデルの信念 シンナーやボンド遊び等非行が横行するように
立ち上げから携わってきた嘉子からすれば、家庭裁判所への思い入れは並々ならぬものだった。だが、嘉子は裁判官の赴任先として、家庭裁判所をあえて希望しなかった。
「先輩の私が家庭裁判所にいけばきっと次々と後輩の女性裁判官が家庭裁判所に送り込まれることになろう。女性裁判官の進路に女性用が作られては大変だ」
そんな理由から「50歳前後まで家庭裁判所の裁判官は引き受けない」と心に決めたという。
その決意どおりに、13年余りの地方裁判所の経験を経たのち、昭和38(1963)年4月から、48歳にして家庭裁判所へと異動。嘉子は「少年審判部九部」に所属することとなった。
少年事件の担当が当初は不安だったワケ
家庭裁判所で扱う事件は、大きく分けて2つある。1つは「家事事件」で、離婚や遺産相続をめぐるトラブルなど、家庭内の紛争だ。もう1つが、未成年者の非行や犯罪などの「少年事件」である。
嘉子はこれまで民事裁判でキャリアを積んできた。そのため、「家事審判」ではなく「少年審判」の担当になったことに、当初は不安を感じていたという。だが、家庭局時代の上司にあたる宇田川潤四郎からこんな激励を受けて、考えが少し変わったようだ。
「少年事件は少年を処罰するものではないから、刑事的な思考ではなく、むしろ民事の感覚が大切だ」
ここから嘉子は少年審判のプロフェッショナルとして、日々研鑽することになる。
嘉子を待ち受けていたのは、22万件(昭和38年当時)を超える、膨大な少年事件である。少年事件の背景となる社会情勢についても、嘉子が家庭裁判所から離れていた約10年の間で、大きく変化していた。
連続テレビ小説『虎に翼』第25週・第123回(2024年9月18日放送分)では、伊藤沙莉演じる主人公の佐田寅子が、家族の皆に少年事件について考えを聞くシーンがあった。そこでは、森田望智演じる米谷花江がこんな発言をしている。
「正直、私はピンとはきていないわ。闇市の子どもたちみたいな子も……今はいないしね」
その後、ほかの家族からは「雀荘の周りには若い子がたむろしているよ」「ジャズ喫茶の近くにも気だるそうなガキがわんさか」「凶悪犯罪が起きているのは確かだけど、新聞やテレビが誇張して不安をあおっている部分があるんじゃないか」などという声があがり、少年犯罪の様相が変化してきたことが、ドラマでは描写されていた。
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