発達障害の子どもとの対話で大人が陥る落とし穴 そのコミュニケーションは大人が楽になるだけでは?

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いやはや、その通りですよね。もちろん状況によってはこの若手の選択が正しい場合もあります。けれども、この生徒の年齢や状況を鑑みれば、この上司の指摘は適切です。

コミュニケーションの本質

この場合、生徒のいろんな要求が伝わりやすいと助かるのは本人以上に(介助を行う)こちら側であることは明白です。用を足したいといった要求は、いままでも表情や状況から読み取って対応できていたはずです。わざわざ音声出力する必要があるのか、考えるべきですよね。

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さらに、これがこの生徒の初めての音声言語を介したコミュニケーションであることの考慮も必要ですよね。「楽しい!」「役に立つ!」がコミュニケーション意欲を高めることになるわけですから、「トイレに行きたい」をその貴重な選択肢に使っていいのでしょうか。上司の指摘を受けて、この若手はがっつり反省することになります。実はこの若手とは私のこと。私の忘れられない失敗の1つです。

発達障害の子どもへのコミュニケーション支援では、支援側が「誰のためのコミュニケーションか」を見誤り、支援側にとってメリットのある反応を成立させることに注目が行きがち(我々のわかる反応を対象に強いる)です。これはそもそもコミュニケーションの本質に反することです。

コミュニケーションはできる限りお互いに楽しいものであり、意味のあるものであり、よりリーズナブル(状況に応じて本人に無理なく簡便)なものであるべきですし、そうでないと続きませんよね。

川﨑 聡大 立命館大学教授

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かわさき あきひろ / Akihiro Kawasaki

立命館大学教授。博士(医学)。公認心理師、言語聴覚士、臨床発達心理士。岡山大学卒業、兵庫教育大学大学院修士課程修了。療育センターで言語コミュニケーション指導にかかわった後、大学病院で言語・心理臨床に携わり、2006年岡山大学大学院医歯学総合研究科で博士課程を修了し、博士(医学)取得。岡山大学病院では発達障害から成人の高次脳機能障害の方の臨床に広く携わる。その後、富山大学、東北大学を経て2023年より現職。専門は言語聴覚障害学全般、神経心理学、ことばの発達に遅れがある子どもの指導。大学教員、研究者でありながら医療や療育の現場出身であることを活かし、発達神経心理や脳科学、特別支援教育を主に広く発信を続ける。

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