(第73回)結婚は万病薬か(その1)

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山崎光夫

 昨今、婚活が流行(はやり)である。

 この言葉がいつ頃から使われるようになったか、定かには知らない。だが、「就活」が定着して、それ以後にあらわれたようだ。

 「就活」に就職難が付きまとっていると同様、「婚活」の背景に結婚難がある。ここにも不況やデフレ、円高が影を落としている。 若者受難の時代が続いているといえる。

 婚活では、まず、自らが積極的に相手を探す。親や友人、先輩などに自分の意志を伝え、良縁の網を張る。
 これと並行して、結婚相談所やブライダル機関に登録したり、お見合いパーティーに参加したりするようだ。そうした情報はネットや広告でどこでも見られる時代になった。

 平成以前の話だが--、結婚相談所の広告が掲載されている新聞は三流紙と相場が決まっていた。これは、結婚相談所にいかがわしいイメージが付きまとっていたからだ。男女のあやしい出会いの場でもあった。

 「赤サギ」といえば、結婚詐欺師を指すが、彼らにとって何に苦労するかといって、結婚願望の女性を見つけること。それは砂浜で落とした真珠の玉を捜すに似て、困難を要する。
 そこで彼らは結婚相談所を悪用したものだが、平成以前は普通の女性はこうした相談所を利用しなかった。危ういからである。結局、赤サギは普通の女性には出会えず苦労も尽きなかったと思う。

 ところが最近では、結婚相談所の広告が全国紙に堂々と、それも全面広告で載っている。変われば変わるものである。赤サギバンザイ!かというと、登録には資格審査もあるので、思惑どおりには行かないようだ。

 3.11の東日本大震災以降、結婚する男女が増えているらしい。「絆」を求めているのだという。ヒトは動物であるから自然界の動きに左右される。陰陽が調和しているのが自然本来の姿。女性の「陰」と男性の「陽」が融和する結婚は自然の理にも適っている。

 「結婚はいいですよ。結婚すると男女とも治る病気がありますから」

 若い人は若いうちに結婚してくださいと結婚を強くすすめるのはあるベテラン内科医。

 たとえば、結婚前にさんざん悩まされた、湿疹。この病気が結婚を機に治って、肌がすべすべになる。これは、幸せな結婚生活と陰陽の調和により、ホルモンの分泌が促されて、皮膚の潤いが増すためと考えられる。

 結婚は社会的に認知され、一人前の大人になった証拠でもある。結婚して、自信が生まれ、精神の安定が図られ、体調が良好になる。肌艶もよくなろうというものである。

 湿疹ばかりか、アレルギー、胃腸病、ゼンソク、偏頭痛、便秘、冷え症、果ては、腰痛、高血圧、うつ病も治ってしまうケースもある。

 結婚は万病薬ともいえそうだ。

 「結婚は、一足す一が二ではなく、三、さらには五にも十にもなる。人智や数学を超えた効果をもたらすのが結婚です」

 若者受難の時代だからこそ内科医は結婚を推奨する。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』『二つの星 横井玉子と佐藤志津』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
山崎 光夫 作家

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やまざき みつお / Mitsuo Yamazaki

1947年福井市生まれ。早稲田大学卒業。TV番組構成業、雑誌記者を経て、小説家となる。1985年「安楽処方箋」で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。主な著書に『ジェンナーの遺言』『開花の人 福原有信の資生堂物語』『薬で読み解く江戸の事件史』『小説 曲直瀬道三』『鷗外青春診療録控 千住に吹く風』など多数。1998年『藪の中の家 芥川自死の謎を解く』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。

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