地方私鉄と「台北メトロ」友好協定の本当の狙い 「知られざる観光地」求める訪日客取り込めるか
有名観光地を巡るだけの単なる記号消費型でなく、より付加価値の高い体験型の商品開発には自社サービスのブラッシュアップと共に地域との連携も不可欠だ。従来、松本は東京や飛騨、アルペンルートなどから入り、翌朝松本城を見学して次の目的地へ向かうゲートウェイ的な滞在が主だったが、インターネットでは見つけることができない新たな地元の魅力を発掘し紹介していくことで、松本での滞在日数を伸ばすことに成功しているという。
また、この4月には包括連携協定を結んでいるインドネシアの私立大学の日本語・文化学科卒業生をアルピコHDで採用した。同社で初となる海外大学出身者の新卒採用だ。インバウンド対応の戦力として育てていきたい考えで、入社式にはグループ新入社員代表に抜擢され、答辞を述べた。
観光資源の発掘という意味では「ヨソ者」の視点も重要なポイントだ。例えば地域の人々にとって雪は迷惑なものでしかない。しかし、雪を見たこともない外国人観光客にとっては雪合戦をすることすら大きな体験となる。また、9月には同大学向けに、観光産業やホスピタリティをテーマにした集中講義を実施する予定である。
交通業界を含め、観光産業全体での人材不足が叫ばれる中、人材の発掘、育成は喫緊の課題である。どんなにインバウンド需要が伸びても、受け入れ側の体制が整っていなければ本末転倒だ。「ヨソ者」視点という意味では、アルピコ交通と台北メトロの友好協定も、今後、例えば職員を招待するなどして、台湾目線で長野県内のプロモーションなどが実現するとすれば、さらに大きな可能性を秘めていると言えそうだ。
「日本人より日本を知っている」訪日客
少子高齢化が深刻化する今、地方のバス、鉄道を中心とした交通事業者は、岐路に立たされている。日本の公共交通は独立採算が前提であることから、利用者数を増やさない限り抜本的な対策には至らないが、人口増加も見込めない中、労働力不足も追い打ちをかけ、減便や廃止が相次いでいる。
地方交通事業者が生き残る道は観光需要の創出、とくに外国人旅行者の取り込みにかかっていると言っても過言ではないが、一方で、日本は今、増大する外国人観光客によるオーバーツーリズムという問題も同時に抱えている。
2000年代初頭、2010年までの年間訪日観光客1000万人を掲げてスタートした「ビジット・ジャパン・キャンペーン」は、当初は計画を下回っていたものの2013年以降、急激な伸びを見せ、2019年の訪日観光客は早くも3000万人を突破してしまった。その間に受け入れ側で対策が取られてきたかといえばそうとも言い切れず、オーバーツーリズムが発生するのも当然の結果である。
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