地方私鉄と「台北メトロ」友好協定の本当の狙い 「知られざる観光地」求める訪日客取り込めるか

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筆者もかつて、インバウンド1000万人達成のために知恵を絞れと、さまざまな宿題を課された経験があるが、蓋を開けてみれば、周辺各国の人々の可処分所得の増加、日本の相対的物価安、そして円安と、外的要因で外国人旅行者は増え続けた。

日本側の要因で大きいのは、タイ、マレーシア、インドネシアなど東南アジア各国に対する観光ビザの免除やビザ要件の緩和くらい(もっとも、これも各国の急速な経済成長に裏打ちされた動きであるが)だろう。

従来は団体旅行に参加するか、日本側からの招聘状や保証人がなければ渡航できなかったのが、これらが不要になったことで、日本が好きでお金もあるのに行くことのできなかった人々が殺到することになった。「高嶺の花が一気に身近な存在になった」というタイ人女子の声を今でも覚えている。

中には、年に2度も3度も日本に訪れる人もいる。まして、「安近短」となる台湾からの観光客からすれば、もはやゴールデンルート的な旅行に食指が動かないのも当然だ。台湾からの訪日客の9割弱をリピーターが占めている。タイ、シンガポールでも8割弱、マレーシア、インドネシアに至っても約半数がリピーターだ。

彼らのSNSなどを見ていると、よくそんなところ知っているね、とコメントしたくなるようなニッチな観光地が次々と現れる。しかも、インスタ映えを狙うようなキラキラした人たちが、案外、鉄道を利用していたりする。外国人のほうが日本のことを知っているし、わかっているのである。

訪日観光客誘致に「地方交通」の役割は大きい

増えすぎる外国人観光客に対して国として抜本的対策を打てていない中、台北メトロ側から「有名どころではなく地方、さらには知られていないスポット」と明確に打ち出されたのは皮肉というほかない。本来ならば、日本側から観光庁や行政が主導となって、地方への誘客を進め、さらには、インフラ投資や事業者への助成など、しかるべき予算を投下しなければならない。

訪日観光客による旅行消費額は年間5兆円を超えているが、国や行政の観光産業に対する理解はまだまだ低いというのが現状だ。「コンビニの上に見える富士山」を物理的に撮影できないようにシートをかけてしまうなど、その表れではなかろうか。

富士山ローソン
外国人観光客が殺到して注目された富士山とコンビニの風景(写真:kazuphoto/PIXTA)

地元、いや日本人からすると、富士山は当たり前の存在すぎて、どうしてそこに外国人が殺到するのかがわからない。だからこそ、観光客をその地点から排除するという発想になってしまうわけだが、これではお互いが不幸になる。しかし、このような事象は全国各地で発生する可能性をはらんでおり、観光資源の発掘、商品化にとって、いかに「ヨソ者」視点が重要かということを物語っている。

日本とアジア各国との関係性は、観光の分野においても日本が助けてもらう局面に入ったとも言えるのかもしれないが、地方の鉄道事業者と次々に友好協定を結ぶ台北メトロの動きは、今後の日本のインバウンド戦略、さらには地域創生、ローカル交通の再生に大きなヒントとなるに違いない。そして、地方の交通事業者は、地元に根差しているからこそできる、地域のコーディネーターとしての役割が大きくなるのではないだろうか。

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高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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