堅調なユーロ相場はこれからも続くのか--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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第四に投資家は、米国のリスクは結局のところ欧州と同程度に大きいとみるかもしれない。確かに米国では政治制度の障害によって中期的な財政赤字の安定化計画が打ち出されないままだ。さらに投資家は、米連邦準備銀行が第3弾の「量的緩和」を実施すると懸念しているかもしれない。そうなれば、米ドルは一段安になるだろう。

第五にユーロの現行相場は購買力ベースで突出した水準とは見えない。1ユーロ=1・4ドルという水準はドイツの輸出企業大手にとって低いといえる。おそらくもっとユーロ高でもうまくやっていけるだろう。しかしながらユーロ圏の南部周辺諸国にとっては、このところのユーロ相場は非常に対応困難だ。一部の独企業は、金融危機を乗り切る一助として労働者に賃下げを受け入れさせたが、南部周辺諸国では、生産性の伸びが停滞しているにもかかわらず、総じて賃金が着実に上昇している。しかし、ユーロの総合的な水準は、ユーロ圏の北部と南部を均衡させたものでなければならないので、1ユーロ=1・4ドルという水準は妥当なレンジ内だと議論することも可能である。

最後に投資家は、これまでに12の計画が失敗に終わったにもかかわらず、ユーロ圏の首脳による最新のユーロ救済策がうまくいくと信じているのかもしれない

ユーロが対米ドルで堅調さを維持してきたことについて、このようになんとなくもっともらしい理由が多くある。しかし、向こう1年においてユーロの対ドル相場が堅調であるとか、ましてや上昇するとかいうことを当てにしてはいけない。

Kenneth Rogoff
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

(週刊東洋経済2011年12月3日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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