北向きの斜面も仕掛けによってはいい場所になる。やりようによってはいい物件が建てられる場所を求め、都市開発における将来的な交通網の発展まで視野に入れて調査した。
「土地を見極め、さらに絵も作っていました。設計して模型を作り、構造計算も行う。収支計算までして、利益が出る計画だと判断できたら、デベロッパーのもとへ『やりませんか』、と持って行ったようです」
ヒルサイド久末もまさにこの方法だ。
川崎市高津区久末にある土地は、駅から離れ、スーパーも近くになく、とても不便な場所だった。高低差が約25mという急斜面で、粗大ゴミが捨てられていたような場所を、多くのデベロッパーは売れない土地と判断していたのだ。
「父はうまく環境を作れると思ったんでしょうね。蓋を開けてみれば倍率は約7倍、1日で完売したそうです。見に来た人は気に入ってすぐに決め、抽選になったと聞いています」
斜面住宅にはさまざまな種類がある
斜面住宅と一言で言っても、その形はさまざま。
斜面に沿うように建てた住宅もあれば、斜面をカットして擁壁(ようへき:土砂などが崩れ落ちるのを防ぐための壁)を作り、その上に建てる手法もある。土地には特徴があり、特に斜面は個性が強いため、設計の仕方はそれぞれ変わる。
ヒルサイド久末とゆりが丘ヴィレッジに続いて、1987年に「ペガサスマンション大倉山」(横浜市港北区)が竣工。
さらに、1991年には東京・八王子に7戸×6棟のひな壇上の「テラス42(現:ヒルサイドテラス平山城址)が完成した。ほかの斜面住宅とは異なる形状だが、横浜市保土ケ谷の「HOMES20」も斜面地に建てられている。
斜面に段状に建つ斜面住宅に共通しているのは、先にも触れたようにエレベーターやエントランス、片廊下を設けないなど、管理費を抑える工夫がされていることだ。住戸も広くバルコニーやルーフテラスもあり、自然に囲まれている。共治さんが斜面を生かして手がけた建物の数は、15にものぼる。
ただ、ここで強調しておきたいのは、共治さんは斜面に住宅を作りたかったわけではないということだ。可能性にあふれた集合住宅を実現できるのが、斜面だったのだ。
日本の戸建ては区分所有者がいる。庭や眺望を求めても、限られた環境で実現するのは難しい。そんな住宅環境を工夫次第で変えられるのが、斜面住宅だと共治さんは考えていた。
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