"斜面の魔術師"作った「集合住宅」の衰えない人気 里山に溶け込む住宅、緑が豊かな部屋の内部

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実は、話を聞かせてもらった井出敦史さんの父は、「斜面の魔術師」と呼ばれた井出共治さん(1940~2010年)。斜面において、周辺環境とともに魅力的な集合住宅を建てた建築家である。SUM建築研究所(現:株式会社サムデザイン)を設立し、集合住宅や個人住宅、医療施設などさまざまな建物を手がけた。

息子の敦史さんも建築家で、株式会社サムデザインの代表を務めている。共治さんの設計手法も踏襲し、住宅や別荘、福祉施設や保育園などの設計に携わってきた。ちなみに事務所は、共治さんが斜面地に設計した「HOMES20」にある。

斜面住宅 
1990年竣工の「HOMES20」。横浜市保土ケ谷の斜面地に建つ(写真:筆者撮影)

なぜ、斜面の魔術師・井出共治さんは、斜面に集合住宅をつくるようになったのか。

斜面住宅を手がけるようになった理由

敦史さんは「父はよく『戸建てを超える集合住宅を作りたい』と言っていました。広くていい環境に安く住んでもらいたい、という考えのもと、斜面地の住宅を設計していたと聞いています」と語る。

共治さんが斜面の開発に力を入れたのは1980年代半ばごろ。マンションが大量に建てられ、団塊の世代が購入し始めたころだ。

都心の好立地や駅近の敷地は大手デベロッパーが開発し、共治さんのもとに仕事はまわってこない。

ならば自ら開拓しようと、親しい不動産屋を訪ねて土地を探し始めた。そこで目をつけたのが「斜面」だった。

「なぜ斜面かといえば、平坦な土地よりも価格が非常に安いから。建物は南向きがいいとされているため、北向きの斜面はさらに安価です。方位や場所、景色のよさなどから、“料理をするとおいしくなる斜面”を探したそうです」

ゆりが丘ヴィレッジ 斜面住宅
ゆりが丘ヴィレッジのある川崎市や隣の横浜市は多摩丘陵に位置し、傾斜地の多い街だ。丘や高台を見ると、斜面に家がぎっしり並んでいる(写真:筆者撮影)
ゆりが丘ビレッジ 斜面住宅
ヒルサイド久末の翌年に竣工した川崎市麻生区の「ゆりが丘ヴィレッジ」(写真:サムデザイン提供)
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