ギリシャ、総選挙で安定政権はできるのか チプラス首相は辞任し賭けに出たが…

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今年1月の総選挙で勝利した後、ギリシャ国民の圧倒的な支持を獲得している急進左派連合は、債権者側の要求に屈して緊縮受け入れに舵を切った後にやや支持を失ったものの、今も40%前後の高い支持を維持している。2番手につける新民主主義の2倍近くの支持を獲得、チプラス首相自身も国民から圧倒的な支持を得ており、次期総選挙で急進左派連合が再び勝利する可能性が高い。

ギリシャの議会選挙は 定数300のプレミアム付き比例代表制で、3%以上の得票を獲得した政党に250議席が比例配分されたうえ、 第1党に50のボーナス議席が与えられる。世論調査の結果に基づけば、急進左派連合が単独政権の発足に必要な過半数の獲得も可能な情勢にある。

新政権発足まで政策協議の中断も

ただ、21日、緊縮受け入れに反対するラファザニス前エネルギー相率いる党内の強行派25人が新党を結成すると発表しており、反緊縮を望む有権者の一定数が新党支持に回る可能性がある。筆者の試算によれば、最新の世論調査で急進左派連合を支持している有権者 の13%以上が反緊縮新党の支持に回れば、急進左派連合が単独で政権を発足することは出来なくなる。

その場合も、イデオロギーが比較的近い中道左派の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)やポタミ (TO POTAMI)との連立政権を発足できれば、比較的安定した政権運営が期待できる。ただ、7月初旬の国民投票ではギリシャ国民の6割以上が緊縮受け入れ拒否に投票した。資本規制の解除には時間がかかり、 追加緊縮と景気の冷え込みでギリシャ国民が感じる緊縮の痛みは今後一段と増すことになる。

反緊縮派の新党支持が現急進左派連合支持層の60%以上に上れば、新党が第1党に躍り出る。その場合、 連立協議が難航したり、安定政権の発足が困難となる恐れも出てくる。

20日に総額860億ユーロの第三次支援の初回融資130億ユーロがギリシャ政府の手に渡り、ギリシャは同日 に償還期日を迎えたECBが保有する32億ユーロの国債償還を履行した。これにより9月のIMF向けの 15億ユーロの融資返済、10月のEU向けの72億ユーロのつなぎ融資返済など向こう数カ月の財政資金の不足分を賄うことが可能となった。

ただ、9月20日に予定される総選挙とその後の政権発足までは(連立交渉次第で10月中旬にずれ込むことも考えられる)、政策協議が中断する可能性がある。ギリシャ政府は第三次支援の再開時に、10月までに年金改革と民営化計画の具体策をまとめることを約束しているが、両者は何れもギリシャ国内で反発の大きい分野で、検討が遅れる恐れがある。また、IMFの救済参加の鍵を握るギリシャの債務負担軽減協議は初回融資のレビューが終了する10月頃に開始されるとみられ、 政局の行方と相俟って政策協議への影響も懸念されよう。

田中 理 第一生命経済研究所 首席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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