トランプ陣営の攻撃犬になったベストセラー作家 「トランプ後継」バンス副大統領候補の素顔(上)

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だが、8年後、バンスは副大統領候補としてトランプと一緒にステージに立っている。現在、トランプの「最大の崇拝者」と言われるまでになっている。バンスに何が起こったのか。自分を「白人労働者」と語ったバンスは、今や極右を代表する政治家に変貌し、トランプ後の「MAGA運動」を引き継ぐ政治家と見られている。トランプが当選し、バンスが副大統領に就任すれば、バンスは2028年の大統領選挙で共和党の大統領候補になる可能性もある。

バンスの転向を読み解く

何がバンスを変えたのか。バンスの“転向”あるいは“変節”は、2022年にオハイオ州の上院議員に立候補したときから始まった。「トランプ批判者」から「トランプ崇拝者」に変わった。人が変わるのは別に悪くはない。ただ、なぜ変わったのかを理解することは重要である。

なぜバンスがサンフランシスコでの裕福な生活を捨て、2017年に故郷のオハイオに戻ったのだろうか。バンスは2017年3月16日の『ニューヨーク・タイムズ』に「なぜ私は引っ越しをするのか(Why I’m Moving Home)」と題する記事を寄稿している。

バンスは、転居する理由を次のように説明している。

アメリカには地域的な不平等が存在している。高等教育は、貧しい地域から優れた若者を吸い上げ、有能な若者を大都市に再配分している。そうした「頭脳流出」が、地域的、階級的な格差を作り出し、政治の分極化を作り出している。

「すべてのことが悪くなると感じている場所(オハイオ州)から来た人間にとって、人々が生活はつねによくなっていくものだと感じている社会(シリコンバレー)に住むことは不愉快なことである」と書いている。生活が悪化するのが当たり前の地域で生まれたバンスにとって、豊かで、希望に満ちたサンフランシスコで暮らすのは不愉快なのである。

「私は、教養があり、一般的に善意な人々が、“中西部の遅れた地域”や、そこで住む人々について醜い言葉を話すのを聞いたことがある」と、故郷に対する思いを書いている。「こうした楽観主義がシリコンバレーで暮らす人にアメリカの他の地域の本当の問題に対して盲目にしているのではないかと思っている」と指摘する。

「オハイオ州に移住する実際的な理由がある。私はオハイオ州のオピオイド(医療用麻薬)蔓延と戦う組織に資金を提供している」と、移転の理由を説明している。荒廃する故郷で福祉団体(Ohio Renewal)と投資会社を設立している。同時に政治的野心も抱いていた。ただ、こうした活動は思ったような成果を生み出さなかった。

バンスの批判者は、こうしたオハイオ州での活動はバンスの政治的野望の隠れみのだったと批判している。事実、帰郷した次の年の2018年に上院議員への立候補を検討し始めている。バンスのオハイオ州への帰郷の本当の狙いは、荒廃する故郷の復興という名分とは別に政界への進出にあった。

バンスは上院選挙立候補でトランプの支持を求めた

バンスは上院議員に立候補する際に、かつて批判したトランプに支持を求めた。オハイオ州出身とはいえ、バンスは選挙基盤を持っていない。予備選挙を勝ち抜き、本選挙で民主党候補を破るには、後ろ盾が必要だった。

バンスは、恥も外聞もなく、上院選挙出馬を前にトランプ批判のSNSへの投稿をすべて削除した。トランプの怒りを収めるために何度もフロリダを訪れ、トランプに謝罪した。

『The Atlantic』で書いた文章について、「自分のトランプ反対論は間違っていた」と語っている。そして「トランプの影響を受けて、自分のトランプに対する考えが変わった」と釈明している。「誰かを評価するとき、判断が間違っていたら、自分が間違っていたことを認めることはよいことだと思う」「最も重要なことは、5年前に何を言ったかではなく、アメリカ国民の利益を実際に守るために、立ち上がるかどうかだ」と、苦しい弁明を繰り返している。

そして「トランプの支援がなかったら、選挙で勝てなかっただろう」と素直に認めている。トランプへ忠誠心を示し、トランプの最大の擁護者になっている。バンスは改宗者のような情熱を持ってトランプ主義を受け入れている。

中岡 望 ジャーナリスト

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なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒。東洋経済新報社編集委員、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。専攻は米国政治思想、マクロ経済学。著書に『アメリカ保守革命』。

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