トランプ陣営の攻撃犬になったベストセラー作家 「トランプ後継」バンス副大統領候補の素顔(上)

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トランプは共和党全国集会でバンスを大統領選挙の伴走である副大統領候補に選んだ。39歳と若いバンスは一躍「トランプ後」を担う後継者として注目された。2022年の中間選挙で上院議員に初選出されたバンスはまだ就任2年目の新人議員である。政治経験も浅く、政界での実績もない。

回顧録『ヒルビリー・エレジー』がベストセラーに

バンスを有名にしたのは、2016年に出版され、ベストセラーとなった少年時代の回顧録『ヒルビリー・エレジー』である。バンスがイェール大学法科大学院2年生の時、教授に少年時代の体験をもとに回顧録を書くように勧められたことが執筆の動機である。

同書は、保守的で、貧しいアパラチア地域に住む白人労働者の生活の実態を赤裸々に描いた。バンスが生まれたオハイオ州ミドルタウンはアパラチア地域の一部である。そして、ミドルタウンは「ラスト・ベルト(錆付いた地域)」と呼ばれる荒廃した元産業地域の一部でもある。

かつては石炭産業や製造業が栄えた地域であるが、産業の衰退とともに人々は貧しい生活に陥った。多くの住民は貧しさゆえに、アルコール中毒や薬物依存、家庭生活の崩壊に苦しむ一方で、敬虔なキリスト教徒でもある。バンスも、両親は離婚し、母親は薬物依存症で、幼少期は貧困と虐待に苦しんだ。

バンスは、アパラチア文化を「社会の衰退に対抗するのではなく、ますます衰退を促進する文化」と呼び、「悪い状況に対して最悪の形で反応する」絶望的な社会であると描いている。暴力と無責任、怠惰、そして「自分以外のすべての人を責める」社会であると手厳しいコメントをしている。

バンスは厳しい環境を抜け出すために、高校を卒業すると、海兵隊に入隊した。軍隊に入るのは、アメリカでは貧困から抜け出す有効な手段である。除隊すると「GI法(復員兵保護法)」で大学進学の奨学金がもらえる。

バンスは除隊後、地元のオハイオ州立大学に進学し、2013年にイェール大学法科大学院に入学している。卒業後、短期間、弁護士として働いた後、サンフランシスコに移り、ベンチャーキャピタルで働く。その後、オハイオ州に戻り、自らベンチャーキャピタル企業を設立した。2022年にオハイオ州上院議員選挙に立候補し、勝利している。そして一気に副大統領候補にまで駆け上った。まさに「アメリカンドリーム」を実現した人物である。

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