ビットコインには、今も大きな潜在力がある 「所有権がない」判決に惑わされるな
そこで、ほかの債権者との関係が問題とならない、排他的な支配権である所有権を主張することで、破産手続の枠組みから逃れようとしたというのだ。報道によると、今回の訴訟の原告は、ビットコインに3000万円近く投資していたようであり、限られた選択肢の中で、自分だけはなんとか回収したいと考えたのだろう。
銀行であれば、事業者が破産した場合でも、預金保険制度などによってユーザーを公的に保護する仕組みがあるが、ビットコインは2009年に初めて現れたもので歴史が浅く、今のところ特別に規律する法律は存在しない。問題が発生した時は、今回のように一般的な民事法の枠組みにしたがって処理されることになるため、ユーザーとしては思わぬリスクを負う可能性が出てくる。
藤武弁護士は「ビットコイン事業で市場から信頼され、ユーザーに安心感を与えるためには、規制する法律がはっきりしない段階でも、コンプライアンス対応を意識したビジネスモデル構築を行うことが重要になる」と言う。
具体的には、取引所を営むのであれば、「金融商品取引法や商品先物取引法で取引所に課されている規制を確認し、東証などの市場の取引所がどのような自主規制を整備しているのかを参考にする必要がある」(同)。
証券会社のような仲介業を行うのであれば、「金融商品取引法で金融商品取引業者にどのような規制が課されているかを見るべき」(同)であり、「決済のプラットフォームを作り、それが資金決済法上の『資金移動業』に似ているならば、その規制を参考にして、事業資金とは分離された口座に、顧客から預かった資金を全額デポジットすることも考えなければならない」(同)。
つまり、現行の法律の中で、自分の業態にいちばん適合的な規制をできるだけ取り入れ、自助努力で顧客の信頼確保に努める必要があるわけだ。
業界では自主的に利用者保護体制を模索
実は、業界としてもこうした信頼確保に向けた自助努力の動きを見せている。
昨年8月、ビットコインを扱う事業者が中心となり、価値記録の健全なビジネス環境と利用者保護体制の整備を進めることを目的として、日本価値記録事業者協会(Japan Authority of Digital Assets 以下、JADA)を設立した。JADAは、世界各国の仮想通貨に対する規制を参考にした、自主的なガイドラインを作成し、取引前にリスクや損害賠償ポリシーをユーザーに説明することや、取引金額レベルに応じた本人確認の実施、セキュリティ及びコンプライアンス体制の構築、アンチマネーロンダリング対策など、加盟事業者に対して細かく業務上の義務・推奨内容を規定している。
JADAの顧問をつとめる斎藤創弁護士は「今回問題となっているマウントゴックスの事件は、JADAが設立される前に起きたもの。反社会的勢力が入ってこないかという懸念についても、入会審査の段階できちんとチェックして、排除を徹底している」と、健全性の確保が進んでいることを強調する。現時点では規制する法律が定まっていないが、業界自主規制により、野放し状態にならないよう努力していることは間違いないようだ。
では今回の判決を当のビットコイン事業者はどう受け止めたのだろうか。
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