一風堂や山頭火が頼る「製麺企業」の波乱なドラマ 稲盛和夫さんから教えてもらった大切なこと

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ところが、解雇者を対象に州や国が支給した給付金は、給与額を上回るほど手厚いものだった。「解雇になったほうがよかったような空気さえ漂っていた」中で、夘木さんは「働いてもらうこと」「仕事を続けること」にこだわり続け、自らその必要性を繰り返し語ったという。

働くことを通じて心を高め、自らの内面を耕し、人格を磨いていく――。稲盛氏がもっとも大切にした「正しいこと」の実践だった。

残ってくれたスタッフらと一緒に販売機会を見つけ、工場を稼働させると、非効率な課題に気づき、改善と工夫が次々と生まれた。

結果的に2020年は売り上げが30%減った一方、経常利益は4.4%の増益決算になった。危機が去った時、その利益は迷わず、働き続けてくれた従業員に、国の給付金以上の額として分配したという。

コロナ禍も休まず走り続けた会社は、従業員との信頼関係、生産効率の両面で確実に筋力と体力をつけ、次の飛躍に必要な土台が築かれていた。

2023年5月、オランダ・ロッテルダムに同社初の欧州拠点となる製麺工場が稼働を始めた。現在、出身10カ国から16人の従業員が勤務し、EU圏内14カ国の約300店舗向けに製造出荷している。

サンヌードル 一風堂 山頭火 一幸舎
サンヌードルから特注麺を仕入れて商品を提供するロッテルダムの「RAMEN NIKKOU」で注文した醤油ラーメン(筆者撮影)

欧州工場の統括責任者で、2000年代のアメリカ本土進出時からサンヌードルに勤める澤川啓介さんは、「ヨーロッパはアメリカのラーメン市場に比べると8〜10年遅れている印象。日本食メーカー、飲食店出店を目指すオーナーにとって、開拓余地の大きさを感じる」と話す。

サンヌードル 一風堂 山頭火 一幸舎
オランダ・ロッテルダムの工場を統括する澤川啓介さん(筆者撮影)

サンヌードルの工場は、挑戦者のサポート拠点になるだろう。

1食売っても利益が10円にも満たない世界

製麺会社の事業は、生麺1食を売って利益が10円にも満たないような世界だという。「初めてビバリーヒルズの高級住宅を見た時には、ラーメンの小さな利益では一生買えないだろうなと思ったことがある」と夘木さんは懐かしそうに語り、こう続けた。

「決して、大金持ちになりたくて規模を大きくしているわけではありません。稲盛さんが説いたように、創意工夫があるからやるべきことが増えて、人を増やし、また工夫して。その追いかけっこがずっと続いている感じです」

コロナ下で迎えた創業40年目の2020年、夘木さんは息子の健士郎さんに社長を引き継いだ。妻の恵子さん、娘の久恵さんも経営の中核を支える。稲盛氏に出会った14年前に35人だった従業員は現在303人、売上高は非公表だが、会社が支払う年間給与総額は約1200万ドル(約18億円)の規模になった。

ラーメン サンヌードル 
サンヌードルを経営する夘木ファミリー。(左から)長男で社長の健士郎さん、妻・恵子さん、栄人さん、娘・久恵さん(同社提供)

稲盛和夫氏の逝去から3回忌を迎えた。「ハワイのサンヌードル」は「世界のサンヌードル」へと着実に階段を上る。稲盛式「商人道」の国際競争力が試される実践でもある。夘木さんの仕事は、これからが本番だ。

座安 あきの Polestar Communications社長

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ざやす あきの / Akino Zayasu

1978年生まれ、沖縄県出身。2006年沖縄タイムス入社。編集局政経部、社会部を経て09年に朝日新聞福岡本部・経済部出向。出産育休後、保育や学童、労働、障がい者雇用問題などの取材を担当。連載「『働く』を考える」が貧困ジャーナリズム大賞2017特別賞受賞。20年3月末に新聞社を退職し、現在、Polestar Communications社長、Polestar Okinawa Gateway取締役広報戦略支援室長。執筆取材活動を通じ、沖縄を介してアジア展開を目指す企業の人的ネットワークの構築や商品・ブランド開発を支援している。

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