ただ、同社の2015年3月期のROEは16.14%ありますから、今のところは十分高いと言えます。自己資本比率が高くても、それ以上に収益率が高いために、高ROEを維持できているのです。収益力、安全性ともにすばらしい会社ですね。
「アップル特需」消失に、中国減速が重なった
ところが、先行きに関しては陰りを見せています。ファナックはこの期の業績予想を大幅に下方修正したのです。通期の売上高は、前期比13.9%減の6283億円、営業利益は同比26.7%減の2182億円、純利益は23.2%減の1595億円と、減少する見込みです。
理由は2つあり、ひとつはIT特需がなくなることです。ファナックの主力製品である、スマートフォンの金属加工ケースを作るための小型機械「ロボドリル」は、アップル社のiPhone6(2014年9月発売)の生産時に爆発的に売れました(主な販売先は中国の受託製造サービス会社)。いわゆる“アップル特需”が発生していたのです。それが今期はなくなりますから、大幅に業績が落ち込む見通しとなりました。
もうひとつの原因は、中国景気の減速です。詳しくは後ほど述べますが、中国景気の減速懸念とともに、同国内での人件費の上昇も相まって、日本企業が中国に拠点を置くメリットが小さくなってきています。こういった背景から、2015年上半期の日本から中国への投資額は、前年同期比マイナスとなりました。これまで伸び続けてきた日本から中国への投資のトレンドが変化していると言えます。
特に産業用機械などは、日本からの投資に乗っかって業績を伸ばしてきたところがありますから、投資額が減れば、その分、落ち込みやすくなります。ファナックの下方修正も、その点を見越したのでしょう。
また、ファナックの地域ごとの売上高(前2015年3月期、セグメント情報、15ページ参照)を調べますと、全体の売上高のうち、アジアは53.7%を占めています。ちなみに、日本は16.9%ですから、アジアの比率の方がはるかに高いのです。
アジア各国は中国経済の影響を大きく受けますから、中国が減速すれば、アジアの周辺国も同時に落ち込みます。当然のことながら、アジア比率の高いファナックもその波に飲まれてしまいます。
いくら収益力の高い企業であっても、マクロ経済の動きには逆らえません。中でも、特定の地域に大きく依存している企業では、その影響を受けやすいのです。
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