是枝監督「長編デビュー作」に残る"輪島の風景" 能登半島地震の復興を願い、リバイバル上映

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――輪島の方の協力ということもそうですが、この映画には本当にいろんな偶然というか、奇跡が詰まっている映画だったんですね。

中堀:ポスターのスチール写真(藤井保氏)も最後の日に撮っているんですよ。実はこの時、雨が降ってきたので、周囲にビニールを貼って。雨を全部切って、それで撮ったんです。

だからなかなかトーンもよかったですね。すでに照明部が片付けをはじめていたんですが、スチールに音は関係ないですから。そうやってみんな手伝ってましたね。

――地元の方とお酒を飲んだりしたんですか?

中堀:僕は酒は飲めないんですけど、ただそんな暇はなかったですね。朝出て、夜帰って寝るというだけなんで。ただちょうどその頃、僕がカップラーメンのコマーシャルをやっていて。その会社が1週間ごとにカップラーメンをダンボールで民宿に送ってくれて、民宿の人にお湯だけ用意してもらったりもしていましたね。

合津:私の製作費ではカップラーメン代は出せなかったから(笑)。ありがたかったですね。でも(撮影場所の家の改修を引き受けてくれた)大工の坂下久造さんもそうでしたが、現場をのぞくことはなくて。彼は事前に家を改修してくれるだけで、あとはそっとしておいてくれた。それはすごいなと思いますし、ありがたかったですね。

――今回、デジタルリマスターで生まれ変わった『幻の光』はどうですか?

中堀:リマスターした画面を観て、自分でもこんなにきれいだったのかと思うくらいよかったですね。だからここ(取材場所となったBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下)のスクリーンで観たんですが、DCP(映画館などでデジタル上映をするためのフォーマット)になったということもありますが、コントラストが見事で。しっかりとしていてよかったですね。

合津:あと音もよかったですよね。

中堀:最後の、ふたりが岩場にやってくるところは引きの画面なので、ワイヤレスマイクで録ってるんですけど、もう亡くなりましたが、録音部の横溝正俊さんが「音はこれでオッケーですから。仮に再撮するとしても、次は絵だけ撮ってくれればそれに合いますから」と。

幻の光 是枝裕和
無印良品、JR、日清食品など大手企業の広告写真を手がけた藤井保氏が撮影したポスター用のスチール写真 © 1995 TV MAN UNION

あそこでは江角さんがすすり泣く声まで聞こえてくるんですから。あれも嵐みたいな状況だったけれども、とてもいい状態で録音されていますよ。

傷ついた主人公が輪島で癒やされる

――輪島を舞台に、そうした奇跡が積み重なってできあがった映画ですから、多くの人に観てもらいたいですね。

合津:わたしも年を重ねて、いろいろな喪失だったり、悲しいことも重ねてきているわけです。『幻の光』でも、傷ついた主人公が、輪島で癒やされて生活していくわけです。それが何だか重なって見えてくるんですよね。

この映画の1カットは長いので。そこが考える間になって、それが29年前よりもっと深く沁みるというか。それは今日、(上映初日に)劇場に来てくれたお客さまもそうおっしゃってくださって。とてもうれしい感想でした。

幻の光 是枝裕和
輪島塗の箸製造元である岩多箸店がチャリティグッズとして制作した「輪島うるし箸2本セット(黒赤・千すじ)」(3000円)を上映劇場で販売。こちらも収益が輪島市に送られる。© 1995 TV MAN UNION
壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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