「甲子園、2部制でも命が危ない」と医師警告のワケ 無理する球児を襲う「熱疲労の蓄積」の怖さとは

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1984年のロサンゼルス五輪でマラソン競技に出場したスイスのガブリエラ・アンデルセン選手のエピソードは、あまりにも有名だ。

意識がもうろうとして、真っ直ぐに走れない状態でゴールした姿が世界に映し出された。このときアンデルセン選手は、「最後の給水スポットでは水を飲めませんでした。(中略)確実にそのことが最後の数マイルに影響を及ぼしました」とコメントしている。

確かに、当時の五輪ではマラソンの給水所は4カ所しかなかったが(今は改善されている)、問題は脱水だけではないだろう。

前述したハワード大学の研究などが示すように、熱疲労の蓄積が大きな影響を与えた可能性が否定できない。ところが、筆者が探した範囲で、この点に言及した記録はない。当時は、五輪選手に対してですらこうだった。

「熱疲労の蓄積」どんな対策が必要か

熱疲労の蓄積という概念は、夏の高校野球の安全性を高めるうえで重要だ。猛暑のなか炎天下で連戦を経験するため、熱中症のリスクが高まるからだ。

だが、選手も指導者も無理をしてでも試合に出たがる(出したがる)。それは高校球児や指導者にとって、甲子園は人生の晴れ舞台だからだ。

近田投手のケースのように県予選からの疲労が蓄積していても、「少しふらふらしたが、宿舎で休んだら元気になった」と、試合に出場しようとする球児もいるだろう。「少しふらふらする」程度では、周囲も試合への参加を止めることはできない。

現時点で何ができるだろうか。

夏の甲子園のような炎天下で競技を行う場合、軽症の熱中症でも医師の診察を受けるようにすることだ。アメリカ家庭医学会(AAFP)は、「軽度の熱中症でも、24~48時間は暑さにさらしてはいけない」と言及している。

彼らの意見を尊重すれば、少しでも熱中症の症状がある球児は、少なくとも翌日の試合への出場は制限すべきということになる。近年の猛暑を考えれば、筆者もこの考え方に賛成だ。

では、どうやって出場を制限するかだ。選手と監督に判断させるのは酷だろう。主催者が医師の力を借りて制度化すべきだ。このような議論はまだなされていないが、球児の命を守るため、最新の医学研究を踏まえた合理的な議論が必要である。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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