「甲子園、2部制でも命が危ない」と医師警告のワケ 無理する球児を襲う「熱疲労の蓄積」の怖さとは
近田氏はその後、ソフトバンクホークスに入団し、現在は京都大学野球部の監督を務める。ホークスファンならずともご存じの方も多いだろう。
6月21日、朝日新聞が「熱中症で降板した甲子園 『申告できる人に』京大監督の教訓と指導」という記事で紹介しているので、ご興味がある方はお読みいただきたい。
この年、近田投手の前評判は高く、報徳学園は優勝候補の一角に挙げられていた。ところが青森山田高校に敗れ、1回戦で姿を消した。敗因は近田投手の不調だ。
近田投手は4回頃から足がつりはじめ、7回には両足のけいれんが止まらなくなり、立っていることもできなくなった。結果、青森山田高校打線に打ち込まれ、途中降板となった。最終的に5―0で敗れている。
敗戦から3日後、体調は十分に回復していなかったが、近田投手はトレーニングを再開した。午後のランニングを始めたところ、意識がもうろうとしはじめ、やがて意識を失った。
周囲の人の助けにより、救急車で最寄りの病院に搬送された。医師の診断は重度の熱中症で、そのまま集中治療室に入院となった。
致死率10~50%のヒートショック
この状態は医学的には「ヒートショック」と呼ばれ、致死率は10~50%程度とされている。筆者もこうした患者を何人か担当したことがあるが、全員亡くなった。
並外れた体力があった近田氏は、幸いにも一命を取りとめたが、ヒートショックによる筋肉をはじめとしたさまざまな臓器への障害は、その後の近田氏のキャリアに負の影響を与えたはずだ。
朝日新聞の記事によれば、近田氏の体調不良は青森山田高校との試合から始まったものではないらしい。7月の兵庫県予選が終わったあとに微熱が続き、倦怠感を自覚していたという。
ところが、「チームが勝つために、自分が投げなければいけない」と考え、監督にも報告せず試合に出続けたらしい。これが重度の熱中症へとつながった。熱疲労蓄積の典型例である。
医学界ではこのことは古くから指摘されている。
1996年にアメリカのハワード大学の研究者が発表した、新兵訓練期間の海兵隊員を対象とした研究が有名だ。彼らは熱中症と診断された1454件のケースで、熱疲労の蓄積の影響を評価した。
具体的には、“Wet Bulb Globe Temperature Index (WBGTI) ”という指標で75〜80の環境に暴露されたケースと、熱曝露がなかったケースの熱中症の発症リスクを比較した(念のために記すが、アメリカのWBGTIは日本の「暑さ指数」とはまったく別物だ)。
研究結果は驚くべきもので、前日にWBGTIで75~80の熱曝露があった場合、コントロール群と比較して、熱中症の発症リスク(頻度)が約40倍増加したという。
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