タリバン最高指導者の死が宣言された理由 和平を巡って深刻な派閥対立が起きている

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後継者として和平交渉を進めてきたアフタル・マンスール師(写真:REUTERS/Taliban Handout)

過去数週間で、タリバンとかつて同盟関係にあった2つの異なる武装集団が、オマル師の死を宣言する声明を発表した。彼らの目的はオマル師の代理であるマンスール師にタリバンを指導する権力があるか否か疑問を投げかけることだった。

タリバンに密接な関係を持つパキスタン人のベテランジャーナリストが最近伝えたところでは、オマル師の26歳の息子、ヤクーブ師と他の強硬派は和平交渉に反対している。強硬派らは7月7日に直接和平交渉に代表団を派遣するというマンスール師の決断に反対した。マンスール師はその後、和平交渉はオマル師の指示によるもの、とうわさされる声明を発表した。

タリバン内では深い派閥対立

この動向はタリバン内の深い派閥対立を反映しており、この対立は運動全体を分断しかねない。イデオロギーの亀裂も存在する。かつてISへの忠誠を誓った強硬派の中には現在では伝統的なタリバングループと共に銃撃戦に従事していることがよくある。

同時に、オバマ政権が決断した米軍の大規模な撤退は、タリバン強硬派の取り組みを増強してきた。反政府グループはアフガニスタンの北部で一気に軍事的な攻勢を強めた。

現在、アフガニスタン政府軍の死傷率は50%増となっている。ニュース報道によれば、今年上半期だけでおよそ4100人のアフガニスタン兵士と警官が死亡し、7800人が負傷している。

アフガニスタンのアシュラフ・ガーニー新大統領もその大胆な外交的な賭けにより、アフガニスタン人の同志から容赦ない批判にさらされている。米国で教育を受けた人類学者の大統領は就任以来、中国とパキスタンの当局者らと、公然と積極的な対話をしてきた。タリバンを交渉の席に着かせるための支援を期待して大統領はこれらの国に対して多くの譲歩を行った。

珍しくアフガニスタンから伝えられた良いニュース(=オマル師の死)は、ガーニ―大統領の戦略が報われた結果といえるだろう。タリバン指導者らを14年間保護してきたパキスタン軍当局者はタリバンに和平交渉へ出席するように強く圧力をかけている。

元米国務省高官でありアフガニスタン専門家のバーネット・ルービン氏によれば、パキスタン軍の最重要同盟国である中国からの圧力が中心的な役割を果たしてきたようである。中国当局者は同地域の戦闘状態を中国政府の経済発展計画と、アフガニスタンとパキスタンの両国に接する中国西部における政治的安定計画への脅威としてとらえるようになっている。

7月29日に「ニューヨーカー」誌に掲載されたルービン氏の記事では「新疆 (シンチアン) 自治区の分離独立の動きに関連するテロ攻撃の増加で、テロ攻撃に関わる兵士の一部がパキスタンとやアフガニスタンで訓練を受けていたことで、中国はアフガニスタンの安定を国家安全保障と今後の経済に不可欠なものと考えるようになった」と書かれている。

一部のアメリカ人には奇異に聞こえるかもしれないが、オマル師の死は最悪のタイミングで起こったともいえる。オマル師の残虐行為は中世の古い体質のものだったが、10年以上の間、彼はタリバンの求心力となってきたことは間違いない。

7月31日の交渉とその後数週間の進展をみれば、アフガニスタンがシリア、イエメン、リビアと同様に国家崩壊への道をたどるかどうか判断できるかもしれない。ISの台頭が示したように、タリバンの崩壊からさらなる過激派が発生することもありうる。

今、複数の国家と長年アフガニスタンを舞台にしてきたその国家間の対立の中で珍しい意見の合意が存在する。しかし、これまで40年間にわたり国内・外のさまざまな勢力によってアフガニスタンに解き放たれた遠心力を停止するには遅すぎたかもしれない。

(デビッド・ローデ記者)

※デビッド・ローデ氏はロイターの事件記者で2011年9月から2014年1月までロイターの外交コラムニストを務めた。彼はピューリッツァー賞を2度受賞したことのある「ニューヨーク・タイムズ」紙の元記者である。彼の最新書籍は「Beyond War: Reimagining American Influence in a New Middle East」。本稿に記された見識は彼自身のものである。

 

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