円安インフレに政府が促し「日銀利上げ」の転機 住宅ローン金利は引き上げへ、景気減速は否定

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これまでは、いかに「借り得」の状態を作り出して需要を拡大するかが課題だった。予想物価上昇率が低いなか、名目金利はゼロより大きく下げられず、実質金利の引き下げにも限界があった。そもそも2%の物価目標を日銀が掲げるのも、景気が悪化した際、名目金利を下げることで実質金利を引き下げる余地を作る目的があった。

2021年以降、アメリカの利上げを機にした円安や原油高でインフレが進むと、実質金利は大きく下がった。それでも、賃金と併せた2%物価上昇が実現する確度が高まるまでとして日銀は異次元の緩和政策を据え置き、金融緩和状態を拡大するままにしてきた。そのようなスタンスが円安を招いた。

一方、アメリカではインフレ急騰に抗して利上げしても景気は底堅く、日米金利差が拡大した状態が続くと見込まれ、円安に拍車をかけた。春闘賃上げを受けた3月のマイナス金利解除でもその流れは止まらず、160円台まで進んで財務省は為替介入で押しとどめる事態に至った。

政治が異例の利上げ要請

このような状況に、政府・与党から日銀に対応を求める発言が相次いだ。岸田文雄首相は7月19日に「金融政策の正常化が経済ステージの移行を後押しする」と述べ、さらに、河野太郎デジタル相や自民党の茂木敏充幹事長からも利上げなどの対応を求める発言が続いた。

通常、利上げは需要を冷やすもので、それゆえかつては日銀の利上げに対して政府・与党が景気への悪影響を懸念し、実際に利上げ後に景気が悪化すれば、日銀が批判を浴びた。

ところが今回は、政府・与党が利上げを促したのだ。賃金上昇を物価上昇が上回り、実質賃金のマイナスが続いている。実質賃金のマイナスに加え、円安がもたらすインフレ懸念が冴えない消費の要因とも目されている。それほどまで円安の程度と経済への影響が従来とは異なる局面だといえる。

とはいえ、日銀にとって、円安対応を理由に利上げするのは禁じ手だ。日銀が担うのはあくまで「物価の安定」。植田総裁は記者会見で「(円安が)消費者物価の見通しに影響を及ぼしたわけではないが、現実(見通しより)が上振れるリスクとしてはかなり大きい」と述べた。

馬場氏は今回の利上げは、日銀が示してきたガイダンスに沿った判断とみる。「3月の時点では賃金・物価の好循環が強まれば利上げを実施するとしていたが、マイナス金利解除でも円安が収まらず、4月以降は、円安が物価見通しを上振れさせるリスクが高まれば利上げする方針を示していた。今回の利上げは両方にあてはまる」。

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