日本製鉄、中国大手と「合弁解消」が示す関係変化 「生産能力7割減」脱中国鮮明化で米印へ集中

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日本国内の鉄鋼需要が右肩下がりの中、日鉄は国内でリストラを進めてきた。鉄鉱石から鉄を造る高炉は2020年初の15基から11基まで削減。2025年3月末までにもう1基停止する。高炉15基時代に5000万トンあった国内の粗鋼生産能力を4000万トンまで減らす。

一方、成長も諦めていない。「グローバル粗鋼生産能力1億トン、実力ベース連結事業利益1億円」を目標に、海外で積極的に投資を続ける。中でも重点地域と位置付けるのがインドとアメリカだ。

2019年にはインド5位の鉄鋼メーカー(現AMNSインディア)を、アルセロール・ミタルと共同で約7700億円で買収した(日鉄が40%出資)。2022年にはAMNSインディアが約1兆円の追加投資を決めた。港湾設備を買収したほか、高炉2基を含む各種生産設備を増強する。

アメリカでは日鉄単独で約2兆円を投じるUSスチールの買収を進めている。アメリカ以外の各国政府の承認は得ており、おひざ元となるアメリカ政府の承認待ち。だが、業界労働組合が買収に反対を表明、大統領選挙を前に政治問題化しており先が見通せない。

USスチール買収をめぐっては、アメリカの調査機関が日鉄の中国事業拠点が中国新彊ウイグル自治区に存在するとの虚偽情報を流し、それを受けた政治家から批判されたことがある。日鉄はUSスチール買収と今回の中国合弁の解消は関係ないとするが、結果的に米中対立の余波を受けにくくなる効果はありそうだ。

「中国が攻めてこない市場で戦う」

新興国のインドと先進国のアメリカーー日鉄が力を入れる地域には2つの共通点がある。

第1に市場自体の成長力。インドは中国を抜いて人口世界一となったが、1人当たりの鋼材消費量は中国の6分の1以下の水準で、今後の大幅な成長が期待できる。アメリカは先進国ではほぼ唯一の人口増加国かつ、今後のEVシフトなどで電磁鋼板といった高級鋼の需要増が見込める。

第2が中国の影響を受けにくいこと。中国の過剰生産能力が消えてなくならない以上、この先も近隣国の鋼材市況は乱高下を余儀なくされる。そうした中、政策として中国鋼材をほぼシャットアウトしているのがインドとアメリカだ。

日鉄の橋本英二会長は過去に「中国が攻めることができない市場で戦う」と語っていた。今回の合弁解消は、中国に投じていた経営資源をシフトし、中国とデカップリングした新たなグローバル体制の構築の第一歩となるのかもしれない。

吉野 月華 東洋経済 記者

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よしの・つきか / Tsukika Yoshino

精密業界を担当。大学では地理学を専攻し、微地形について研究。大学院ではミャンマーに留学し、土地収用について研究。広島出身のさそり座。夕陽と星空が好き。

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