4割が月経異常、アスリート「婦人科問題」の深刻 10代の減量で「骨折リスク」を生涯抱えることも
こうした女性アスリートの月経問題は、一部のトップ選手の問題ではない。競技レベルごとに調査してみると、どのレベルでも約4割の女性アスリートが無月経や月経不順だとわかったという。
しかし、JISSはトップ選手しか受診できない。そこで能瀬氏は、どの競技レベルの女性アスリートでも受診できるようにと、2017年に東京大学医学部附属病院(以下:東大病院)に国立大学としては初の女性アスリート外来を開設した。
「JISSでも東大病院の女性アスリート外来でも、ホルモン値や体組成、エネルギーの消費量・摂取量などを調べます。不適切な糖質制限をしている選手は多く、そうしたエネルギー不足の場合は公認スポーツ栄養士による栄養指導を行い、月経随伴症状であれば低用量ピルやプロゲスチン製剤など薬の処方について情報提供を行います。薬の使用を決めるのは選手自身ですが、選択肢を示すことを大切にしながらコンディションの調整を行っています」
ここ10年で女性アスリートが抱える婦人科問題についての認知度は高まり、研究も進みデータが蓄積されつつある。そして今、東大病院の女性アスリート外来も新しいフェーズを迎え、今年10月から段階的に東京都千代田区の浜田病院に移行、2025年春には完全移行する予定だという。
「今後は、アスリートの人たちが気軽に通院しやすい環境作りを目指したいと思います。移行後は診察日を週3日に増やし、より多くの方が受診できるようにしていきます」
また能瀬氏は、2014年に一般社団法人女性アスリート健康支援委員会を設立し、産婦人科医の啓発も続けてきた。研修を受講した全国の産婦人科医は、同委員会ホームページで検索できるようになっている。
「10代の選手」が医療機関につながる仕組みがない
このように女性アスリートが医療機関で受診しやすい環境は整ってきたが、まだまだ課題はあるという。
例えば、2021年開催の東京オリンピック・パラリンピック競技大会における選手のピル使用率は3割と、2008年の北京大会から6倍に増えた。しかし、ピルを使っていない選手の中には、月経困難症で痛み止めを飲んでいる選手が24%、PMS(月経前症候群)の症状がある選手が67%おり、「今後も啓発が必要」だと能瀬氏は言う。
また、中高生の部活動などで運動を行う選手が医療機関につながる仕組みがない点を、能瀬氏は問題視している。思春期に利用可能エネルギー不足が続くと、月経をはじめ骨や代謝、免疫、発育・発達などにさまざまな影響が出る。中でも深刻なのが骨密度だ。骨量が最も増加する20歳頃までにしっかり骨量を獲得できていないと、疲労骨折のリスクは上がる。例えば、10代で骨密度が低いと4.5倍、疲労骨折のリスクが高いという。
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