一方で、小さな子どもたちが集団で生活することのデメリットも存在する。
厚生労働省の定める「保育所保育指針」の中に「一人一人」という言葉が37回も出てくるのは、集団の中で1人ひとりの子どもの気持ちや状態が見落とされがちになることを戒めていると考えられる。
人生で最も成長発達が著しい時期の、発達過程や個性が多様な子どもたちの集団生活を、おおむね一定のスケジュールにそって進むようにすることは、簡単ではない。
不適切保育が食事や午睡の局面で起こりやすいのは、そこでピンチに陥ってしまう保育者が多いためではないかと考えられる。
私の視察経験からは、日頃から保育者が子どもに厳しく接し常に指示・命令で動かしているような園では、子どもは従順であることが多い。一見、そのほうが集団生活をスムーズに運べるように見える。
しかし、そんな園では、子どもは抑圧されて元気がなく、自分で考えたり選択したりするチャンスを与えられていないように見えることが多かった。
そのような保育は「保育所保育指針」が示す保育ではない。「保育所保育指針」は、保育者は子ども1人ひとりの発達や個性を尊重して援助し、やがて大人の細かい指示・命令がなくても子どもが自分たちで考え主体的に見通しをもって生活できるように、体験を通して学んでいくことを求めている。
仲間と楽しく生活する中で生活習慣などを身につけていくことが想定されており、仮に集団での活動になじめない場面があったとしても、保育者が1人ひとりの気持ちに寄り添って援助する、そんな保育を「保育所保育指針」は求めている。
子ども主体の教育や保育観をもっと広げて
「保育所保育指針」の観点から考えても、有無も言わせず子どもを大人に服従させることは、「しつけ」でもないし「指導」でもない。
このことは、学校教育の世界でも議論されているが、日本では子どもを集団で統括し従わせる教育が長く行われてきた歴史があり、いまだに子ども主体の教育・保育観に納得がいっていない大人は多い。
このような精神風土にかかわる問題は、家庭での児童虐待、学校での体罰の問題ともつながっている。
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