そんななかで伊藤氏が考えたのは、曲線を描いた形状で、真ん中をくり抜く大胆なプランである。
「曲線を用いることで、周囲との正対を避け、ビルとビルの隙間からの採光や風、眺望を得ようと考えました。外側からだけでなく、内側からも光や風を採ろうと考え、中央を抜いて中庭を作りました」(伊藤氏)
それでも気になるのは、くり抜いた空間の暗さだ。模型で見ても、光の入りにくさが想像できる。
だが伊藤氏は、ネガティブな要素を逆に資源と捉え、細部を詰めていく。では、どのように設計したのだろうか。建物内のレポートに話を戻そう。
中庭に足を踏み入れると、高さ30mの壁に囲まれる。顔をあげると小さな空が見え、谷底にいるかのように錯覚する。だが圧迫感はなく、不思議と開放感が得られる。
伊藤氏がこの中庭で目指したのは、「暗くてもそこに居たいと思える居場所」を作ることだった。
暗い空間に光が差し込むように工夫
そのために行ったのが主に2つ。まずは「吹き抜けの廊下」を減らしたことである。
高層マンションに見られる吹き抜けは、空間を囲むように共用の廊下が巡らされている。下から見上げると、廊下の裏側が見え、影が落ちて空間全体が暗くなる。一般的な吹き抜けは、住人が通るだけの暗い場所で、人が過ごす居場所ではない。
吹き抜けの構造を持つ天神町placeでは、空間を囲む「廊下」に着目した。
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