3年ぶりに復活した「黒字化目標」が意味するもの 増税ナシで債務残高比を下げる道もあるにはある

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確かに、「債務残高対GDP比の安定的な引下げ」が究極的な財政健全化の目標である。これ自体を破棄すれば、日本政府は国債をまともに返済しようとする気がないということを、世界に高らかに宣言するも同然である。

ただ、「債務残高対GDP比の安定的な引下げ」をどう実現するかが、今後の論議の的となろう。この比率の分母であるGDPを大きく増やせば、債務残高対GDP比は低下しうる。

しかし、人口が高齢化して減少する中で、1人当たりGDPではなく、GDPそのものを大きく増やすには、付加価値向上のために相当な努力が必要となる。そうした今後の日本経済において、「債務残高対GDP比の安定的な引き下げ」を実現するには、GDPを着実に増やすための官民挙げた努力はもちろんだが、債務残高そのものをできるだけ増やさないようにする努力もなされなければならない。

債務残高そのものをできるだけ増やさないようにするということは、基礎的財政収支の黒字を長年にわたり維持することに他ならない。これが、「進捗・成果を後戻りさせることなく」という文言が暗示する財政運営である。

「増税は不可避」とは限らない

では、基礎的財政収支の黒字を長年にわたり維持するには、増税が不可避なのだろうか。

21世紀に入ってから基礎的財政収支は一度も黒字になったことがないわが国において、基礎的財政収支の黒字を長年にわたり維持するなどといえば、増税なしには実現できるはずがない、という先入観はあるだろう。

しかし、東洋経済オンラインの拙稿「2060年の財政を『持続可能』にする増税以外のカギ 内閣府の長期試算が示す条件付きの未来予想図」で述べたように、4月に内閣府が公表した2060年までの経済・財政・社会保障の長期試算によると、2030年代以降もずっと平均的に実質成長率を1%超で維持し、医療と介護の改革が着実に進めば、大規模な増税をしなくても、基礎的財政収支の黒字を長年にわたり維持できて、債務残高対GDP比が安定的に低下してゆくことが示されている。

もちろん、2030年代以降もずっと平均的に実質成長率を1%超で維持するには、内閣府の長期試算でも認めているように、技術進歩と労働参加が促され、やや高めの出生率が実現しなければならない。これらの条件が満たされてはじめて、1%超の実質成長率が実現する。

加えて、医療と介護の改革も着実に進めなければ、税収等の伸びを超えて財政支出が増えてゆくことになるから、これらの改革も必須である。

それで初めて、増税はしなくても、債務残高対GDP比が安定的に低下してゆく。

増税を避けに避け続けるべく、技術進歩と労働参加の促進、出生率の上昇、医療と介護の改革を、果断に進めるか。それとも、医療と介護の給付が増えることを容認する代わりに、多少の増税は甘受するか。国民が総意としてどのような選択をするかが問われている。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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