玩具の域超えた!「リニアライナー」開発秘話 時速600㎞をスケールスピードで達成

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そこで生まれた「推進方向だけに反発力が加わるような切り替えができれば走るんじゃないか」というひらめきから考え出されたのが、センサーによって磁気を感知し、位置によって電磁石のオン・オフを切り替えるシステムだ。車両に積まれたセンサーが、丸い磁石の磁力を感知するとコイルに電気が流れて電磁石となり、丸い磁石を通過すると電気をオフにする。この仕組みにより、前に進む反発力だけを得て車両を推進することが可能になった。

同社が「高速磁気センサー」と呼ぶこのセンサーは、製品では4両編成の車両すべてに搭載され、レール1周で実に112回、コイルのオン・オフを切り替えながら走る。レールの丸い磁石の間隔は4センチメートル。これも徹底的な微調整から導き出された最適解だ。「磁力浮上と走行を同時に実現できたのは、調整によって絶妙なバランスを発見できたことが大きいです」と井上さんは語る。

2014年6月の「東京おもちゃショー」出展前日まで徹夜で調整作業を続けたというリニアライナーのコンセプトモデルは、ショーでも実際に磁力で浮いて走る姿が大きな反響を呼び、いよいよ1年後をめどに製品化を目指すことが決まった。

コンマ数グラム単位の調整

システムはほぼ確立されたとはいえ、商品として成立させるためにはさらなる調整が必要だった。コンセプトモデルではレールレイアウトの奥行きが1メートル以上あり、一般家庭に置くためには、よりコンパクトにしなくてはならない。車両もできれば実物の超電導リニアを模したデザインにしたい……。1年という限られた期間で製品を世に送り出すため、再び実験と調整の日々が続いたという。

コンセプトモデルと大きく変わったのは車両だ。製品では架空のデザインではなくJR東海の中央リニア新幹線用車両「L0系」をモチーフとすることになり、編成もコンセプトモデルでは2両だったのを「見た目のバランスがいい」4両にした。

浮上と走行のバランスは難しく「浮けば浮くほどスピードは落ちてしまう」という。コンセプトモデルの段階では、浮上の高さは1ミリメートル足らずだった。だが、商品として浮上している感じを出すにはもっと高く浮かせたい。一方で、スケールスピードで実物と同じ時速500キロメートルは必ず達成しなければならない。この結果、製品の浮上高さは2ミリメートルとなった。浮上する「リニアらしさ」とスピードを両立できる高さとして、度重なる実験と調整の結果、得られた数値だ。

車両が4両に伸びたことにより、重さが増したことも、速度と浮上の面で課題となった。推進用コイルの巻線の数を変えてみたり、磁石の厚みを増やしたり、減らしたり……。車両はそれぞれ重さが異なるため、四隅に取り付ける浮上用の磁石も位置によって微妙に大きさを変えた。コンマ数グラム単位の調整は、製品を発表する直前まで続けられたという。

5月26日に発表されたリニアライナーは、早速世間の注目を集め、すでに始まっている予約も好調という。主なターゲット層は「少年の頃から『夢の乗り物』リニアモーターカーに憧れを持っている」シニア層。今のところ、狙いどおり50〜60代から注目を集めているという。「レールなどを増やしていったり、できる範囲でポイントなども出していければ」と、井上さんは今後の展開についても構想する。

実物のリニア新幹線より早く、9月にデビューを果たす予定のリニアライナー。開発陣の努力とひらめき、そして熱意が生んだ「世界初」のミニチュアリニアモーターカーが、日本各地の家庭で「開業」するのはもうすぐだ。

小佐野 カゲトシ 鉄道ライター

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おさの かげとし

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年独立。国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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