玩具の域超えた!「リニアライナー」開発秘話 時速600㎞をスケールスピードで達成
リニアライナーは、磁力による浮上と走行を同時に実現した初のミニチュアモデルだ。過去にもリニアモーターカーを模した玩具は存在したものの、浮上のみの展示用モデルや、走行可能な製品でも「どこかが必ず接地している状態だった」(井上さん)ため、磁力浮上・磁力走行するのはリニアライナーが世界初という。
磁力で浮上して走る、リニアモーターカーのミニチュアモデルの開発が始まったのは、2013年の初秋。2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催決定から間もなくのことだ。井上さんは「当時、実物のリニア開業を2020年に間に合わせようといった話題が一瞬ありましたが、そこで当社でもリニアを実現させようという機運が高まったんです」と当時を振り返る。
アイデアの元はホワイトボードのマグネット
タカラトミーといえば、鉄道玩具の代表格「プラレール」や鉄道模型の有名ブランド「トミックス」など、鉄道関連商品に力を入れてきたメーカーだ。同社の富山幹太郎会長(開発開始当時は社長)も鉄道への興味・関心は非常に高いといい、「どこよりも早く本格的なリニアを出そう」というトップの熱意のもと、磁力で浮いて走るリニアの実現へ向けプロジェクトはスタートした。
「2014年6月の『東京おもちゃショー』に浮上走行できるモデルを展示する」というミッションの実現へ向け、技術開発の命が下ったのは、くしくも磁石の極と同じNとSのイニシャルを持つベテラン開発者2人。この「NSコンビ」が、磁力で浮いて走るという、過去にないミニチュアモデルのシステムを固めていった。
リニアライナーと実物の超電導リニアは、磁力で浮上し、磁力で走るという点では同じだが、仕組みは異なる。実物は軌道の側壁にあるコイルと車両に搭載した超電導磁石との間の磁力によって浮上走行するのに対し、リニアライナーはレールに浮上用と推進用の磁石をそれぞれ設け、車両に浮上用の磁石と推進用のコイルを搭載する仕組みだ。レールにコイルを設置すると、システムが複雑になり価格が上がってしまうことから、現在のシステムに落ち着いたという。
リニアライナーのレールは、両サイドに帯状の磁石が埋め込まれ、中央には丸い磁石が等間隔で並んでいる。両側の磁石が車両の四隅にある磁石と反発して車両を浮かせる「浮上用」、中央の丸い磁石が車両を前進させるための「推進用」だ。
磁石はいずれも一般に手に入る永久磁石を使っているという。たとえば浮上用の帯状の磁石は、実はホワイトボードなどで使われるゴム状のマグネットだ。「曲線レールを考えると、磁石自体がフレキシブルでないと……」と模造紙をホワイトボードに貼ってアイディアを検討していた際、偶然気づいたのが、ボード上にあった細長いマグネットだったという。自在に曲げることができ、調達も容易だ。「最終的には本当に一般的な磁石で再現できましたね」と井上さんは語る。
磁力浮上のシステムはそれほど困難なく実現したものの、最大の課題となったのは推進システムだ。
車両に搭載したコイルは電気を流すことで電磁石となる。電磁石とレールの丸い磁石が反発する力で車両は前に進むが、そのままだと次の丸い磁石から今度は反対方向への反発力を受け、車両が進まなくなってしまう。
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