障害者雇用未達で「社名公表」寸前からの挽回劇 法定雇用率クリアへの3年で見えた成果と課題

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まさにゼロからのスタートとなった障害者雇用。最初に頼ったのはハローワークだった。事情を説明すると、真摯にアドバイスをくれたという。行政側が主催する障害者向けの合同面接会への参加を促された。

並行して、取引があった人材紹介業者にも障害者を探してもらうよう伝えた。ただ、軽度の身体障害者など、比較的雇いやすい区分の人は企業間で争奪戦となっている。より規模の大きな事業者が資金力にものを言わせ、専門のエージェント経由で集めてしまうケースもある。

取引先から紹介されたのは、精神障害を抱える求職者だった。

厚生労働省が今年3月に公表した「令和5年度障害者雇用実態調査」によると、身体障害者の平均勤続年数が12年2カ月、知的障害者は9年1カ月なのに対し、発達・精神障害者は5年1~3カ月。別の調査では、精神障害者の就職から1年後の定着率は約50%という結果も出ている。

民間企業における障害者の雇用状況

受け入れに苦慮することも想定された。それでも、「とにかく雇用数を増やさなければならなかった。面接して人柄に問題がなければ、積極的に採用すると決めた」(吉田社長)。

ちょうど、社内には任せたい業務もあった。派遣社員は出入りが激しいため、入退社に伴う社会保険の処理などが膨大になる。労務関係の事務で人手が足りていなかったのだ。2022年春に3人の障害者を採用。1人はエージェント、2人は合同面接会を経由した。

働きやすい環境を本人に作ってもらう

大切にしたのは、双方向のコミュニケーションだった。一言に精神障害と言っても、症状や特性は個人によって異なる。そのすべてを企業側で把握し、先回りして対処するのは難しい。吉田社長はこう語る。

「働きやすい環境を本人に作ってもらおうと心がけた。面接の段階で『配慮してほしいことは何でも伝えてください』と話し、実際に『言える』環境を作った。心理的安全性を確保するという観点では、育児や介護などの事情を抱える健常者への対応と同じだ」

過度な負担をかけないよう、労務の担当者が障害者3人に業務を丁寧に教え、少しずつ仕事を引き渡していった。採用に携わった人事部員もつねに顔を合わせる距離で執務し、いつでも相談を受けられる体制を整えた。

努力の甲斐もあり、ほどなくして3人は問題なく職場になじんだ。この時の対応を人事部門でノウハウとして蓄積し、他部署へ横展開していく戦略を立てた。2022年11月には、健常者を含む全社員を対象に月1回の面談を導入。1時間ほどかけて上司が部下の話を聞く定期的な機会を設けた。

障害者から要望を受けて対応に迷った際、上司が人事部へ相談し、人事部で解決策を講じるホットラインも整えた。さらに、採用段階で部署とのマッチングを徹底。募集段階で職種を絞らず、2~3回の面接で応募者の職歴や技能を聞き取り、それにフィットする業務を探す。

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