「マイナンバー特需」に笑う業者、泣く自治体 税金の上に税金がつぎ込まれるのか

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もうひとつ、見方によってそれはITベンダーを擁護することになるのだが、試算を出したときと比べ、マイナンバーの適用範囲が広がっている。2年前のモヤモヤっとした段階で「エイやッ」で作った試算をそのまま見積もりとして扱うことに無理がある。なおかつ、来年の3月末までにシステムの準備を整えるには時間がない。にもかかわらず、いまだに厚生労働省の詳細な省令(仕様)が公表されていない。ITベンダーもリスク込みの見積りを提出せざるをえない、という事情がある。

となれば、当初のスケジュールにこだわるのは無理を生む。総務省が提唱している「自治体クラウド」によるマイナンバー対応が進めば、全体予算は大幅に削減できる。自治体クラウドが真に有効だと考えるなら、関係機関が協力してナショナル・データセンターを建設し、全自治体共通のアプリケーション機能を国費で開発して提供すれば済む。民業圧迫になる、などと自粛自制している場合ではあるまい。

自治体にも問題がある

ITベンダーは税金に寄りかかろうとし、国はスタートラインを決めたものの、あとは自治体任せ。詳細な制度設計が終わっていないのに、明日からシステムを動かせというのは、到底、無理な話だ。では自治体が真に善良なお代官=被害者かというと、実はそうでもないようだ。

総務省が提唱する共同アウトソーシング、自治体クラウドに相乗りしたほうが安くつくのはわかっていながら、ほとんどの自治体が旧態依然の自己導入・自己運用。その理由はさまざまだが、内実はITゼネコンや地域の有力ITベンダーに“丸投げ”で、議会向けの代弁者になっていることもある。まれに自分たちでシステムを作ろうという猛者もいるが、「出る杭は打たれる」のことわざどおり、たいていは人事異動で飛ばされてしまう。

前出のIT主監のように、納得するまで理詰めでITベンダーに説明を求めるしっかり者がいればいいが、多くの自治体はベンダーの言いなりだ。民間から招いたCIO補佐官がいたとしても、どうせ契約期間が終われば去っていく人なのだから、と面従腹背を決め込む職員も少なくない。これでマイナンバーがまともに動くのか。税金の上に税金を注ぎ込んで、その揚げ句は新国立競技場のように、屋根なしで本番開始ということになりはしないのか。

佃 均 IT産業アナリスト

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つくだ ひとし / Hitoshi Tsukuda

30年を超える専門記者の経験と知識、人脈を通じて、IT産業の収益構造や雇用問題などの分析および、史的考察を行っている。

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