「マイナンバー特需」に笑う業者、泣く自治体 税金の上に税金がつぎ込まれるのか

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国が制度を設計し、自治体が実務を遂行するために情報システムを構築するというのは、これまでも珍しくない。古くは外国人登録制度(現在の在留管理制度)や国民年金保険料収納事務、最近では介護保険制度、住基ネットなどがある。そこで国がシステム構築費を人口規模に応じて補助するのだが、今回のマイナンバー制度のシステム改造はちょっと様子が違っている。

筆者のもとに、ある自治体のIT主監から「これってどうなんでしょうね」というメッセージとともに、添付画像が送られてきた。画像は書類の一部で、数字の周りがぼかされている。説明によると、ITベンダーからの見積もり、手書きの数字はIT主監氏が書き込んだもので、国の補助金額という。内容は、住民基本台帳システムや住民税システムを、マイナンバー制度に対応させる作業と連携サーバーの導入だ。

1件はベンダーの見積りが9057万円で補助金2124万円の4.26倍、もう1件は7087万円で補助金985万円の7.19倍。マイナンバーに対応するには、当該自治体が差額を追加しなければならないというわけだ。2件の差額が1億3000万円というのは、素人目には理不尽に見える。

IT主監氏がベンダーの営業担当に根拠の説明を求めると、相手はだんまりを決め込み、「早く決めてくれないとエンジニアの手配がつかなくなる」と言うばかり。「耳元で脅し文句をささやきながら。クリンチ戦法でこちらが根負けするのを待っているようで、いい気持ちはしない」と言うのも無理はない。

金額は少し小さいが、10.6倍、4.2倍、2.9倍という事例もある。ITベンダー=弱みに付け込む悪徳商人、自治体=お上と悪徳業者の板挟みになる善良なお代官、という図柄を思い浮かべる人も少なくあるまい。

いまだに仕様が決まっていない

なぜこのようなことになったのかと言えば、結果として国のシステム改造費補助予算(2014・2015年度の2年間で総額約1180億円:総務省約840億円、厚生労働省約340億円)が楽観的に過ぎた、ということになる。とはいえ、総務省の予算は2013年に取り寄せた大手ITベンダーが、客観性のないIT技術者の労務費(人月単価)で計算した数字を基にしているのだから、そもそもがITベンダーの自作自演、予算不足は自業自得と言えないこともない。ほっかむりする国をよそ目に、不足分の追加を自治体に迫るのは筋が違う。

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