債務対GDP比率を盛んに騒ぎ立てる愚--ロバート・J・シラー 米イェール大学経済学部教授

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 米メリーランド大学のカーメン・ラインハート教授とハーバード大学のケネス・ロゴフ教授らによる、債務と経済成長に関する研究は広く引用されている。この分析は、政府債務がGDPの90%を超えると、経済成長が鈍化し、成長率が年率で約1%低下すると推計している。

90%というのは、100%にひどく近い感じがするので、そんなひどい状態になった国ではひどいことが起こり始めるのだ、と誤解する人もいるかもしれない。

だが、この論文を注意深く読むと、両教授がほとんど恣意的に90%という数字を選んだのは明らかだ。債務対GDP比率が30%未満、30~60%、60~90%、90%より上という四つのカテゴリーに分けられているが、その理由についての説明はない。

現在、世界の大半が直面している基本的な問題は、投資家が債務対GDP比率に過剰反応し、緊縮財政策をあまりに早急に求めていることだ。投資家たちは、経済がまだ脆弱なうちに政府に支出削減を要請している。個人も恐れをなして支出を削減し、企業は資本支出のために借り入れを行う意欲をそがれたままだ。

今回学んだ教訓は単純だ。債務対GDP比率を心配するのはほどほどにしたほうがいい。むしろ、こうした指標が人為的なだけでなく、多くの場合、的外れな概念であると見極められない、われわれの能力不足こそを憂慮するべきだ。

Robert J.Shiller
1946年生まれ。ミシガン大学卒業後、マサチューセッツ工科大学で経済学博士号取得。株式市場の研究で知られ、2000年出版の『根拠なき熱狂』は世界的ベストセラーになった。ジョージ・A・アカロフとの共著に『アニマルスピリット』がある。

(週刊東洋経済2011年9月3日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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