債務対GDP比率を盛んに騒ぎ立てる愚--ロバート・J・シラー 米イェール大学経済学部教授
ちなみにギリシャの国家債務の一部はギリシャ国民に対するものだ。現行の債務対GDP比率では、ギリシャ国民同士が(主として家計の債務の形で)持ち合っている債務が過少に計算されている。歴史上のいつの時点を取っても債務対年間GDP比率(非公式な債務を含む)は100%を大きく超えるはずだ。
大半の人たちは、ニュースの見出しに出てくる債務対GDP比率に反応するとき、こうした点を意識しない。エコノミストでさえ「さほど意味のない比率で右往左往する」という過ちを時に犯す。
今なお世界を合理的期待形成モデルで見ているエコノミストたちは決して認めないが、市場の出来事の多くは、「まったくの愚かさ」によって引き起こされている。つまり、不注意や、経済のファンダメンタルズについての誤情報やニュースへの過度の注目によってである。
早急な緊縮財政を求めるのは危険
ギリシャで起きていることは、社会的なフィードバック機構の作用だ。最初に何らかのきっかけで、投資家は、ギリシャ国債がやがてデフォルトするリスクが若干高まったという懸念を持った。ギリシャ国債に対する需要が減り、相場の下落につながった。市場金利でいうと利回りの上昇だ。
この利回り上昇はギリシャの債務借り換えコストを押し上げ、財政危機が発生し、政府は厳しい緊縮財政策を余儀なくされ、社会不安と経済崩壊につながった。このため、投資家はギリシャの債務返済能力への不信感をさらに募らせた。
こうしたフィードバックは、債務対年間GDP比率が一定水準を超えることとまったく関係がない。確かに、この比率は負のフィードバックのリスク評価に寄与する因子ではある。
なぜならギリシャ政府は早期に短期債務の借り換えをしなければならず、もし財政危機で金利が上昇すれば、政府当局は緊縮財政を迫る強い圧力に遅かれ早かれ直面するからだ。しかし、債務対年間GDP比率はフィードバックを引き起こす原因ではない。