「親ロ国」に懸念、スペイン鉄道メーカー買収騒動 ハンガリー企業の提案に「技術流出」危機感

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だが、これは両社にとって悪い話ではない。タルゴ社側にすれば、ロシアと距離を置くEU域内の企業に買収されることは願ってもないことだ。それだけでなく、タルゴ社はスペイン鉄道向け高速列車やドイツ鉄道向け長距離列車など、同社史上最大規模の契約を複数抱えながらも2つしか工場がないことから、生産の遅延が懸念されていた。すでにいくつもの工場を保有するメーカーに買収されることで、その懸念を払拭することができる。

一方、シュコダ側にとっては、これまでやや手薄だった高速および長距離輸送という2つの分野の技術を一挙に手に入れることが可能となる。スペインが相手としてシーメンスやアルストム、シュタドラーといった業界大手ではなくあえてシュコダを選んだのは、その分野の技術を必要としていると踏んでのことだろう。

シュコダ CZ 中距離電車
シュコダ製の中距離列車用電車(撮影:橋爪智之)

そもそも経営に課題あり

とはいえ、タルゴ社の現状そのものに懸念がないわけではない。前述の通り、スペイン向けの高速列車アヴリルは納入が年単位で遅れており、すでに違約金の支払いが生じている。

また、ドイツ鉄道向けのICE Lと称する新型連接式客車は、同社にとって超大型契約となったものの、新形式に必要な認証試験にパスしておらず、こちらも2024年の運行開始予定が少なくとも2025年夏まで延期されることが決まっている。

タルゴ ICE-L
ドイツのICE Lに採用されたタルゴ社の連接客車(撮影:橋爪智之)
ICE-L 模型 タルゴ
ICE Lは2024年の運行開始予定が納入遅れで2025年夏以降へ延期された(撮影:橋爪智之)

また、アヴリルはフランスの民間企業、ICE Lはデンマーク鉄道とそれぞれ追加の契約を結んでいるが、これらはいずれもまったくの新形式で、そもそも認証試験にパスすることができるのか、という根本的な部分が未知数となっている。このまま納入延期が続けばさらなる違約金の発生や、最悪は契約破棄というシナリオも否定できない。

タルゴ社は、最終的にどこの国の企業によって買収されるのか、という心配よりも、まずは買収に値する技術力や企業体質を兼ね備えているかをきちんと示すことが最も必要と言えるかもしれない。

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橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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