「あなたのため」が「教育虐待」に変わるとき 子供の人生を狂わせる「追いつめる親」たち

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生きている実感がない。職場でも恋愛でも、どうしても人間関係がうまくいかない。原因は自分でもわからないけれど、いつもイライラしていて怒りっぽい。そんな、満たされない感覚が常にあるのだとしたら、もしかしたらあなたも、「教育虐待」の被害者なのかもしれない。

子供たちが塾の自習室に集まるわけとは?

教育熱心過ぎる親というのは昔からいた。ただ、就職難、終身雇用制度の崩壊、経済のグローバル化、変化の激しい時代など、世の中の先行きに対する不透明感の中で、子どもの将来に不安を感じる親が今の時代に増えている。

「英語は早くからやらせたほうがいいのか」「プログラミング教育をしておいたほうがいいのか」「海外の大学に留学をさせたほうが就職に有利なのか」など、子どもが少しでも有利に世の中を渡り歩いていけるようにと、必死だ。

世の大人たちは、英語、プレゼン能力、ディベート技術、プログラミングなど、はやりもののアクセサリーのような知識や技能を子どもたちに身につけさせようと躍起である。ちょっと前まではそれが「学歴」というパッケージ商品であっただけだ。

本当に必要なものがなんなのかがわからなくて不安だから、念のため、あれもこれもと子どもにやらせる。だからきりがなくなる。どこまででも追いつめてしまう。おまけに少子化できょうだいが少ない分、ひとりの子供にのしかかる親の期待と不安は倍増している。

昨今、塾の自習室で勉強する子どもが増えている。はじめ、私にはそれが不思議でならなかった。使い慣れた机・椅子がある自分の部屋で、誰にも邪魔されずひとりで集中するほうが勉強ははかどるのではないか。自習室に行くのは「やってるつもり」になれるからではないか。しかし拙著『追いつめる親 「あなたのため」は呪いの言葉』執筆のために教育虐待の現状を取材するにつれ、そうではないと気づいた。

塾の自習室がはやっているのは、裏を返せば、子どもたちにとって家庭が息苦しい空間になってきているということなのかもしれない。教育熱心な親がいる核家族の子ども部屋は、子どもが勉強するには最悪の場所なのかもしれない。

おおたとしまさ 教育ジャーナリスト

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Toshimasa Ota

「子どもが“パパ〜!”っていつでも抱きついてくれる期間なんてほんの数年。今、子どもと一緒にいられなかったら一生後悔する」と株式会社リクルートを脱サラ。育児・教育をテーマに執筆・講演活動を行う。著書は『名門校とは何か?』『ルポ 塾歴社会』など80冊以上。著書一覧はこちら

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