もはや日本は「景気後退」に入ったかもしれない 「インフレで売上増」のバイアスも消えてきた

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実際に、景気ウォッチャー調査と実質消費支出は乖離が目立っていた。

これらを考慮すると、インフレやインバウンド消費の上方バイアスによって強めの推移となってきた景気ウォッチャー調査がついに悪化し始めたことは、やはり注目に値する。

「インフレで好循環」を否定するコメントが散見

今回の景気ウォッチャー調査では、インフレ・ショック(ビッグプッシュ)によって日本経済をデフレ均衡からインフレ均衡へシフトさせる……という日銀の狙いが上手くいっていない可能性が高いことも示された。具体的には、下記のようなコメントがあった。

ここまで円安が続くと、一段とデフレマインドが増長するように思える。最近は見積りの段階で話が止まってしまうケースが増えてきている。高いので購入を断念したのか、もっと安い業者を探しているのか。売れなければ価格を下げるしかなく、利幅が少なくなる。地方の中小企業の現実はこのような状況である。
政府は賃上げというが、日本国民の7割はこうした中小企業で働いている。安定して利益が出ていれば中小企業も賃上げすべきだが、為替相場が足かせとなっていて、利益が出ない業種も多々あるのが現実ではないか。
(先行き、北関東、通信会社〈経営者〉)

上記はインフレ均衡へシフトさせるための「ビッグプッシュ」がむしろデフレマインドを増長しているという指摘である。人々がインフレ環境に慣れることでインフレマインドが醸成されるという期待とは真逆の意見である。

他にも、下記のようなコメントがあった。

円安による物価上昇がかなり影響し、消費が低迷している。雇用状況は人手不足だが賃金が上がらないため、悪循環になっている。
(現状、北関東、学校[専門学校]〈副校長〉)

人手不足環境でもインフレを上回る賃上げは期待できず、好循環よりも悪循環が懸念されるという指摘である。このコメントもまた、インフレ均衡へのシフトを否定するものである。

少なくともこれらの街角景気の声から判断すると、コストプッシュ型のインフレが「ビッグプッシュ」となって日本のデフレマインドを変える可能性は高くないと言える。今回の景気ウォッチャー調査は、賃金とインフレの好循環にはまだまだ距離があることを示していた。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

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すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

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