ガス計画乱立のフィリピン、問われる日本の責任 環境や漁業への悪影響懸念、日本に中止要請も

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そうした中、国際協力銀など日本の金融機関にも厳しい目が向けられている。漁業関係者は、バタンガス市イリハン村でのLNG輸入基地の建設に際して、同基地事業の親会社であるAGPインターナショナル・ホールディングス(本社・シンガポール、以下AGP社)に出資する国際協力銀が環境面に関する検証を怠ったなどとして、同行のルールに基づき2023年12月に異議申し立て手続きをした。AGP社には大阪ガスも出資している。

来日して記者会見するバタンガス漁民連合のマキシモ・バユバイ氏(左)と環境NGO・CEEDのアンジェリカ・ダカナイ氏(撮影:筆者)

異議申立書によれば、漁民はすでに生じている直接的な被害として、「土地の転換が拙速で、大規模な森林伐採が行われ、その結果として海岸線に大量の土砂が堆積している」「魚の生息地となるサンゴが損傷している」ことなどを指摘。「水質の悪化により漁獲高に悪影響が生じている」と主張している。また、今後生じる可能性の高い被害として、船舶による水質汚染や、海上交通量の増加に伴う油流出リスクの増大などがあるという。

違法行為による停止命令後も建設を継続

イリハンLNG輸入基地の建設ではトラブルも多発している。土地用途の転換に関する承認を得ずに進められたことから、2022年8月にはフィリピン政府の農地改革省は工事停止命令を出した。にもかかわらず、その後も工事は続けられ、LNG輸入基地は2023年5月に稼働を開始している。

こうした経緯を踏まえ、漁民らは国際協力銀に対して、異議申し立て手続きに踏み切った。申立書によれば、環境レビューの適切な実施や、生計手段の喪失への十分な補償の実施、出資持ち分の引き揚げなどを求めている。

国際協力銀が定めた「環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン」では、環境への重大な影響の可能性があるプロジェクトについては「カテゴリーA」に分類し、「プロジェクトがもたらす可能性のある正および負の環境影響について確認する」とされている。これには重大な人権侵害の可能性がある場合も含まれる。

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