「パンの耳」から垣間見る店と客の"苦しい"懐事情 すぐ売り切れ?「みなさん喜んで持っていく」

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気になったのは、ずっしりと重たい“こま切れ”の大袋を抱えていく人たちだ。

70代女性は「ハトにあげます」と言い、週に一度やってくるという70代男性は、「池のカモにあげる。ハトにはあげないよ」と話した。自分で食べる用ではなかった。

一方、「電子レンジで温めるとカリカリになっておいしい」と話すのは大柄な40代の男性。2、3日で1袋を平らげるという。

「太りやすい体質なのでパンは控えたほうがいいんだけど、安いし、これが主食になっています」

街のパン屋は倒産ラッシュ

耳は「1家族につき1袋まで」のルールにしているが、社長の小嶺忠さん(54)によると、すぐに売り切れてしまう日も多いという。

5年ほど前までは、年金生活者とみられる高齢者や、明らかに生活に困っていそうな客が買い求めることが多かったが、最近は主婦やスーツ姿のサラリーマンも手に取るそうだ。

小嶺さんは日々、地域住民の暮らしがひっ迫しているのを痛感している。夕方時点である程度パンが残っている場合、タイムセールを行うのだが、最近は「まだ安くならないの?」と尋ねてくるなど、セール目当ての客が増えた。値下げされるまで1時間半待ち続ける客もいたという。

そうした厳しいやりくりを迫られているのは、店側も同じだ。

オーブンの電源はこまめに落としているが、電気代は増えるいっぽう。午後の時間帯はアルバイトの人数を2人から1人に減らしたが、昨年から最低賃金が引き上げられ、バイトの時給も上がっている。

材料費の高騰もすさまじい。一斗缶(約18リットル)の油は以前3800円だったのが8000円に、パン生地に練り込む材料として買うインスタントコーヒーは、1袋1000円からいきなり2200円になった。

統計の数字も、街のパン屋の苦境を物語る。東京商工リサーチによると、2023年度に全国で倒産した「パン製造小売」は、過去最多の37件を記録した。

「僕は親父の後を継いだ2代目だけど、自分の子どもに継いでほしいとは思わないよね」

そう苦笑いする小嶺さん。このまま値上げラッシュが続けば、「菓子パン1つを500円で売る未来」もちらつく。しかし、「地域密着の店としてはなるべく値上げはしたくない」。

求める人がいる限り、パン耳の販売も続けるつもりだが、かつてのパン屋で見かけたような「砂糖をまぶした耳の揚げパン」を商品化するのは難しいという。

「油の値段や人件費が上がっているので、割に合わなくて。耳は少しでも安く提供したいので、調理はご自身でお願いします」

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