中国政府の「不動産買い取り政策」は簡単ではない 6年ぶりの「上海ウォッチング」で考えたこと

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5月22日、アメリカの通商代表部(USTR)は中国製EVに対する制裁関税を8月から100%に引き上げると発表した。「秋の大統領選挙目当て」「『もしトラ』に対するバイデン政権の対抗措置」といった観測もあるけれども、「とにかく中国と競争するのはご勘弁」という思いがあることは想像にかたくない。

久しぶりに歩く上海の街角はあいかわらずの賑わいで、とても景気が悪いようには見えなかった。ただしよくよく見ると、ショッピングモールなどでは閉鎖している店舗も目立つ。地元の人たちに尋ねてみると、これは皆さん「スマホで買い物」に慣れてしまい、わざわざ店舗で買い物をしなくなったからだそうだ。デジタル化が進んだのみならず、各家庭に低料金で商品を届けてくれるバイク便のサービスが急成長しているのである。

たまたま夕方の時間帯に、市内の某高級タワマンのロビーをのぞく機会があった。そこにはひっきりなしにバイク便がやってくる。晩飯どきが近づくにつれて、住民たちが注文したケータリングが届くのである。ゆえにドアマンはほぼ5分おきに、彼らをエレベーターまで案内しなければならない。いくらデジタル化が進んでも、「ラストワンマイル」は結局、人力に頼らざるをえないのだ。やっぱり日本では真似ができないことだけは間違いがない。

などと、今回は短期出張の見聞ベースの話が多くなるのだが、中国経済といえばやはり不動産問題に触れないわけにはいかない。中国の大手不動産ディベロッパー、恒大集団や碧桂園が経営破綻しているのはご案内の通りだが、4月に中国広東省・深圳に本拠を置く万科企業が格下げになったことが注目されている。同社は政府系なので、「いよいよ不動産問題の解決に向けて、中央政府が重い腰を上げるのではないか」との観測が飛び交っている。

不動産買い取りは、やっぱり一筋縄ではいかない

「7月に開催されるという三中全会において、政府による不動産買い取り策が論じられる」との期待もある。売れ残り住宅を政府が買い上げてくれるのなら、ようやくこの問題にも薄日が差すというものだ。しかるにその場合に生じるのは、1990年代日本の不良債権問題を記憶している人にとっては、馴染みのある「懐かしい」選択となる。それは買い取り価格をどうするかという問題だ。

仮に在庫の住宅を簿価で買い取るとなれば、ディベロッパーは大助かりだろうが、膨大な財政資金が必要となるし、「悪徳業者を救うのか」との世論の反発も覚悟せねばならない。逆に時価で買い叩くならば、財政資金は少なくて済むけれども、不動産業者にとってのメリットは小さい。むしろ実勢価格が明らかになることで、「バブル崩壊」という現実を誰もが直視することになる。やっぱりこの問題は、簡単ではないのである。

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