年金生活者たちの「実は優雅な暮らし」の実態 「家計調査」から見えてくる意外な懐事情

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一般に、金融資産の分布は、「パレート分布」という分布になっている。これは、身長や体重などの「正規分布」とはかなり違う性質を持つ分布だ。極めて大きな値のサンプルが、ごく少数あるのだ。この場合、平均値は、多くの人が感じる実感より、かなり高い値になる。

金融資産は、ごく一部の少数の人々が極めて多額の資産を持っている。このため、平均値の計算においては、それらの人々の影響が大きくなり、日常的な感覚に比べると、高い値になるのだ。

そこで、貯蓄保有世帯の中央値を見ると、1677万円だ(貯蓄保有世帯の中央値とは、貯蓄0世帯を除いた世帯を貯蓄現在高の低い方から順番に並べたとき、ちょうど中央に位置する世帯の貯蓄現在高)。多くの人にとって、こちらのほうが日常的感覚に近い。

金融資産の大部分が、預金

前項で見たのは、2人以上の世帯のうち世帯主が65歳以上の世帯だ。ところで、収入・支出で見たのは、このうちの無職世帯だ。そこで、2人以上の世帯のうち世帯主が65歳以上の無職世帯(2人以上の世帯に占める割合32.0%)の1世帯当たり貯蓄現在高を見ると、平均値は2359万円となり、前項で述べた値より少し低くなる。

貯蓄の種類別に1世帯当たり貯蓄現在高をみると、定期性預貯金が865万円と最も多く、ついで通貨性預貯金が699万円、有価証券が400万円、「生命保険など」が390万円、金融機関外が5万円となっている。

こうした現状に対して、「預金に偏りすぎており、株式投資を増やすべきだ」との意見がある。しかし、こうした考えが適切か否かは、疑問だ。高齢者になってからは入院や介護などで不意の出費があり得るので、常にそれに対応できる流動性の高い資産を持っていることが必要だからだ。

実物資産面はどうか? すでに述べたように、持ち家率は極めて高い値であり、しかも広い住居だ。この資産価値がどの程度になるかは、住んでいる地域にもよるので一概には言えないが、金融資産よりかなり高額になる可能性が高い。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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