「女子高生に扮したおじさんの恋」にグッときた夜 NHK「VRおじさんの初恋」が名ドラマである理由

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直樹はホナミ(穂波)と彼の娘・飛鳥(田中麗奈)とのこじれた関係を修復すべく行動をはじめる。原作との違いは、ドラマでは現実パートの割合が多いことだ。

単行本1巻分の漫画を15分✕32回の連ドラにするにあたり、どこを膨らませるかと考えたら、直樹がVRにハマったきっかけとなる現実世界を描くことで対比を色濃くする。その考え方は妥当だろう。

原作者の暴力とも子がnoteに書いている文章を読むと、原作に書かれていない部分を膨らませるにあたって、ドラマスタッフが原作者にヒアリングしているそうだ。なので、昨今問題になる、映像化する側の独自な原作改変ではなく、あくまでも原作者の想いを尊重している。それもあってか違和感はあまりない。

おせっかいな佐々木をはじめとした直樹の会社の人たちは、原作では名前もないキャラクターだが、ドラマではかなり膨らんでいる。加藤(瀬⼾芭⽉)というオリジナルキャラクターもいる。この加藤の自意識がなかなか面倒くさくておもしろい。

たとえば、1本の栄養ドリンクを差し入れるだけでも、彼女の場合、かなりの気苦労がある。他者への配慮と自意識の相違を思い知らされると同時に、そこまで突き詰めないとならない生きづらさを思う。

また、飛鳥とその部下・耕助(前原滉)や飛鳥の息子・葵の学校のエピソードなども手厚く描かれている。

VRおじさん

現実世界の直樹(左)と穂波。実際のホナミはシニア男性だった(画像:NHK『VRおじさんの初恋』公式サイトより)

NHKの“上から目線”がない作品

最終週では、現実の世界で、直樹が「ブルース・リー・スピリッツ作戦」なるものを葵と耕助とともに決行しようと画策し、飛鳥をVRの世界に誘う。

すると彼女は「どうしたって現実で生きていかなきゃいけないのに、見た目をきれいにしただけのきれいでもなんでもない人間が目的もなく時間を浪費するこのコンテンツのありかたが私には理解できない」と言う。

案の定、こういうセリフが出てきた。この流れだと、書を捨てよ町へ出よ、じゃないが、VRの世界を終わらせて現実に戻ろうとなってしまわないだろうかといささか心配にもなった。

直樹がこのまま現実の世界で奮闘して、現実の世界も捨てたものじゃないというふうになったらどうしようと危惧したが、飛鳥がVRの世界を体験することで穂波を理解することになる。

原作は徹底して、世間でいうところの“成功者ではない者たち”の側に立った物語だ。変わるとか変わらないとかではなく、状況や心情をありのままに描いたからこそ、強烈に心を打つものになったのだろうと感じる。

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