「広告が不快」グランスタ東京の炎上に残る違和感 Apple、サッポロなど相次ぐ広告炎上対応で考えること

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広告の表現は、芸術やエンターテインメントの表現と比べても制約が多く、「ルールを守る」「誰も傷つけない」ということが重用される。それでも、さまざまなことに挑戦したり、ギリギリのところを攻めたりすることで、多くの人の注意や共感を引くことに成功することもある。批判を恐れて過剰に萎縮してしまえば、広告の目的を達成することができない。

最近炎上したアメリカ・Apple社の新iPad Proのプロモーション動画は、トランペット、ギター、カメラ、テレビなどのさまざまな物がプレス機で押しつぶされ、最後にiPad Proが姿を現す――という内容になっている。

この動画は批判を浴び、Apple社は“We missed the mark with this video(この動画は的を外していた)”として謝罪し、テレビCMの放映を行わないことを表明した。しかしながら、同社の公式YouTubeアカウント上では、本動画はいまだ(2024年5月14日現在)取り下げられておらず、視聴可能となっている。

日本企業が日本国内向けに配信した動画であれば、即刻で取り下げとなったに違いない。筆者としても、この表現は動画で押しつぶされる物を作った人や、その物を愛する人たちを逆なでするものであるし、物を破壊する行為自体が好ましくなく、当然取り下げるべきだと考える。

一方で、グランスタ東京の広告については、取り下げるべき明確な理由は見当たらなかったと筆者は考えている。広告表現の主旨が誤解を招くものであったのであれば、主旨を説明して掲示を続けるという選択肢も取れたように思う。

取り下げ以外の対応方法もある

このところの「取り下げ」ラッシュを見ていると、本当にそれがベストなのかという疑念を抱かざるをえない。今後、広告の内容が「不愉快だ」という批判に対しては、「(批判が妥当と言えない場合は)取り下げない」「(取り下げずに)主旨を説明する」「(一旦は取り下げるが)表現を調整して再度掲載する」というように、さまざまな対応方法を検討するのがいいのではないかと思う。

直近では、タレントの生田斗真氏がInstagram上で出産に関する不適切な発言をしたことで、CMに起用しているP&Gに対して降板を求める声も出ているが、こちらに関しても、筆者は取り下げる必要はないと考える。

いずれにしても、不買運動が起きるほどの決定的なミスが広告にあったのでもない限り、多少の否定的な意見があったところで、企業イメージはそこまでダメージを受けないし、多くの場合、売り上げにも大きな影響は出ない。必要以上に世間の声に過敏になって、必要のない広告取り下げを行わないためにも、今回取り上げた事例と対応方法が参考になればと思う。

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西山 守 マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授

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にしやま まもる / Mamoru Nishiyama

1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。「東洋経済オンラインアワード2023」ニューウェーブ賞受賞。テレビ出演、メディア取材多数。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。

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